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距離感(祈織)
今日休みだ、と起きてすぐ気付く
流されて
もう4日間ここにいた
今日休みだからここにいる意味なんてもう無かった
仕事を教えてもらうわけじゃない、
もう帰らなきゃいけない
じゃないとおれの事だから流されて一緒にいてしまう
『あの、』
「なに?」
『帰ります、今日』
「帰んの?まぁ休みか」
『はい、』
「休み明け来る?」
『……いえ、もう、1人で仕事出来ますし…休みだからWiFi買いに行けるんで、』
「あー、そっか」
だから、もう帰らなきゃここにいちゃ行けないんだ
『ありがとうございました、』
「…何となく、志波くんは帰りたくないのかと思ってた」
『……帰りたくないです、』
「いれば、ここに」
『もう…充電、しちゃったんで』
「充電がどうこうとか言い訳じゃなくてさ、志波くんはどうしたいの?」
帰りたくない、
帰ったら1人であの散らかった家にいなきゃいけない
そしたらまた色々考えてしまう
だから、
『帰ります』
「わかった。そしたらまた仕事わかんない所あったら連絡して。リモートもあと1週間で開けるし」
『…はい、お世話になりました。迷惑かけてごめんなさい』
「迷惑じゃなねえかな。楽しかったし」
『楽しかった…?』
「あぁ、カレー作ったり」
『…ありがとうございます』
良かった、嫌われなかった
やっぱり嫌われる前に帰ろう、
おれは昔から人との距離感が上手く掴めない、
だから高校の頃は汰一と友達になったつもりが上手く友達をできなくて関係を壊した、
匡平に飼われていた頃は
匡平の事を好きになって、どうしようもなくなって好きになってもらいたくて
迷惑ばかりかけて結局は逃げて捨てられた
紬が家にいた時は
あいつの気持ちをわかっていたのに甘えてどうにもできなくて傷つけた
匡平の会社で働かせてもらっていたから上手な距離感でいられた会社の人とももう疎遠になった
あきらくんとも、最近連絡取れてないな
友達だったのに、最近おればっかりあきらくんに依存してたから見放されたのかも
だから、この人との距離感は間違えたくなかった
◇◇
先輩にお礼を言って
家になかなか帰りたくなくてちょっと歩いて帰った
というか、本当は充電もしてなくて
電子マネーも多分使えない?
使えんのかな?
充電切れてても使えるって噂だけど使ったことないから怖くて使えなかった
先輩の家にいる為の言い訳で、充電をしなかった
あとは…スマホを見るのが怖かった
ここ最近の、ずっと誰とも連絡を取ってなかった
紬に捨てられてから
誰からも連絡が来なくて
誰になんて連絡したらいいのかもわからなくて
それなのに、いつでも連絡が取れると謳われている機械が手元にあるのが怖かった
だから充電が切れているって理由で鳴らなくても、誰からも連絡が来なくても大丈夫な理由を作っていた
家までは歩いて30分くらいかかった
久しぶりに歩いた、
30分の道のりは近かったような遠いかったような気もする
はぁ、と1度ため息を吐いてから家のドアを開けた
『あれ、何これ』
と、思わず声が出た
部屋が、片付いている
なんで?おれ、すげえ散らかして出ていったし…
山のようにあった洗濯も、なくなって
棚の中に入っていた
ハウスキーパーさんは、今は呼んでない
だから、こんな事するの
おれが居ない家に入れるのなんて
あいつしか居ない
『匡平、』
すぐに充電の線を繋いだ
でも、ずっと充電してなかったから起動に時間がかかってイライラした
どうしよう、匡平今どこにいんだよ
と、スマホの画面にようやくリンゴのマークが表示されたけど
そこで冷静になって
怖くてすぐに裏返した
どうしよう、
匡平に連絡してどうする?
なんで、部屋片付けたのか聞けばいいのか?
それで?
匡平はおれに会いに来たのかな?
会ってどうする?
いつまでもこうしてても仕方ないから
震える手でパスコードを入力して
スマホを開くと
すぐに通知音がなって
誰かから連絡が来ていたことがわかる
電話も来てる、と開くと
匡平から何回か電話が入っていて
留守番電話にメッセージまで入っていた
どうしよう、匡平の声、聞きたいけど聞いたら我慢できなくなる、
そしたら、また迷惑かける
もう、匡平を解放しようと思っているのに
いつまでも匡平に迷惑かけられないんだよ
留守番電話はとりあえず聞くのをやめて
そのままLINEを開くと
LINEにもたくさんメッセージが入っていた
見るのが怖くて、1番上に表示されている文字だけ読む
いおりん、死んだの?
シバくん元気かな?社長が心配してたよ
祈織さん、おれのせいですか?
祈織、どこいんだよ
おれなんかの事、みんな心配してくれてるんだ、
何日かスマホを見なかっただけなのに。
申し訳ない気持ちと
嬉しい気持ちで胸が苦しくなった
とりあえず返せそうなLINEは返そうと
あきらくんのLINEから開く
いおりん、話聞いてよ
え?まさか無視?
いおりんが落ち込んでる時オレ相手してあげたじゃん!
ねえ、いおりん
え?
いおりん、死んだの?
と、あきらくんの独り言LINEを読んでいると少しだけ笑ってしまった
あきらくんごめん、
充電切れてた。生きてるよ。
どうしたの?
と、返信をした
あきらくんに、見放されたと思ったけど
そんな事なかったみたい、よかった
次はヤナギさんのLINEを開く
シバくん元気かな?社長が心配してたよ
と、多分匡平がヤナギさんに何か言ったんだろうって
ご心配かけてすみません。
元気です
と、現状報告の返信をする
あとは、と紬のLINEを開く
傷つけた紬にまで要らない心配かけてる
祈織さん、こんにちは
今日ガタイのいいおっさんがおれのバイト先に来ました
祈織さんと連絡取れないって
家にもいないって
祈織さん、おれのせいですか?
と、あいつが
おれのせいで責任を感じているのが申し訳なくて
たまらなく辛かった
電話しようかなと思ったけど
紬の声を聞いて、泣かない自信がなかった
紬の前ではかっこつけたいから、
震えている声なんて聞かせたくなかった
違うよ、おれのせいだよ。心配かけてごめんね
紬、傷付けてごめんね
と、メッセージを送った
あとは、匡平、と、
匡平のLINEを開こうとして手を止めた
匡平には、なんて言おう
部屋片付けたこと聞けばいいかな、
謝ればいいかな、
それで、もう、会わないって、言えばいいのかな
それが多分正解だけど
そんな事言う勇気がおれには無くて
完全に匡平と切れるのが怖くて
その方がいいってわかってるのに
どうしてもそれができなかった
ごめん、匡平
もうちょっと、保留させて
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