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反対側(祈織)

シバくん、お兄ちゃんと連絡取ってないの? なんかシバくんのことお兄ちゃんから聞かれたから心配になっちゃって と、みーちゃんから連絡が来たから 心配かけてごめんなさい 大丈夫です と、返信をした 匡平、そんなおれのこと心配してんのかな そんな事しなくていいのに 匡平に会いたい、とため息を吐いて 未だに開いてない匡平のLINEを指で軽くなぞる 今日の夜はあきらくんと飲むことになっているからそれまでは暇で WiFiだけネットでプライムで注文して それをしたらやる事が無くなってしまって ぼけっとテレビを見ていたけど 暇だから寝ようかな、とそのままソファに丸くなった時だ ガチャガチャっと玄関から音がして 驚いて起き上がる え?匡平?来た? どうしよ、まだ会う準備出来てない 会う準備というか 会わないつもりだったからそんなんできてる訳無いけど 気持ちの問題というか とりあえず今は会えない、と 咄嗟に隠れようとしたけど 隠れる場所なんて思いつかなくて 咄嗟に毛布を被ってソファの影に隠れる 「祈織」 と、匡平がリビングに入ってきて どすどすと足音が近付いてくる どうしよ、とそのまま息を殺すと 匡平の足音はちょっと遠のいて 少しだけ息を吐くと 他の部屋のドアを開けている音が聞こえた 気付かなかったのかな、 しかし、また戻ってきた足音、 そして 「祈織、居るんだろ、出てこい」 と、匡平の声が続く そりゃそうだ テレビつけっぱなしだし、 飲みかけの飲み物とかもテーブルに置きっぱなし スマホもソファの上にある 匡平は、ソファの影に隠れるおれには気づかないようでソファに腰を下ろしたから どうしよう、とますます動けなくなっていたが 不意に バサっと毛布が取られ視界が明るくなる 「…何やってんだよ…」 『………かくれんぼ…?』 「………ふざけんな、」 何言えばいいかわかんなくなってそのまま座っていたけど 匡平に腕を引いて立たされて ソファに腰を下ろした 「どこ行ってたんだよ」 『…先輩の家』 「先輩?」 『今の職場の』 「なんで、そんな何日も、」 『リモートなんだけど…おれ、転職したばっかりで、わかんない所もあったし、WiFi繋がん無くなったから、』 と、理由を口にしたけど 言い訳でしかなくて 『………本当は、』 「なんだよ、」 『1人で、家にいるのが嫌だった、』 「だったら家来ればいいだろ。なんでそんな」 『匡平の所には行きたくない』 「………なんで、もう、俺の事要らねえのかよ」 そんな訳ない、 おれには、いつまで経っても結局匡平が必要で、 『なぁ、』 「なんだよ、」 『匡平って、カレー作る時、はちみつ入れてた?』 「あぁ、入れてるけど。なんだよ、急に」 『なんか、匡平の作るカレーは辛くないから好きだったなって』 「作るよ、カレーぐらいいつでも」 『うそつき、』 「…材料買ってくるから待ってろ。どこも行くな」 『いや、カレー、昨日食べたばっかりだし』 「……、んだよ」 匡平なんか怒ってる、 いや、何日も連絡無視してたから当然か 『部屋、片付けてくれてありがとう』 「汚すぎんだろ、お前の部屋」 『…うん、知ってる』 匡平に触りたい、と 隣に座る匡平に手だけじりじりと近付いて見たけど やっぱり触ったら行けない気がしてすぐに手を引っ込めてソファの反対側に寄りかかった 「祈織」 はぁ、触りたい 匡平の体温感じたい と、その時だ 『きょ、』 ぐいっと、手を引かれて思わず変な声が出た 『ちょ、なんだよ』 「いや、触りたそうにしてたから」 と、匡平はそのまま手を繋いでくれる なんでいい歳した大人がソファで並んで仲良く手繋いでんだよ 『匡平、もう帰って。鍵も返して』 「やだよ、おまえ死ぬもん」 『死なないよ、生きてる』 「今回は死んでなかったけど次は死んでるかも知れねえだろ」 『もうすぐ会社も、リモート終わるし』 「へえ」 と、匡平はおれと繋いでいる手に少しだけ力を入れた 匡平の体温嬉しい、ぎゅってしてくれんのも嬉しい おれ、ダメだな もう匡平を解放するって決めたのに 匡平の顔見ちゃうと好きとか嬉しいが勝って 言わなきゃいけないこと言えなくなるし手すら離せない 「こっち来いよ」 『やだ、』 「おいで」 『やだって、』 「祈織」 と、繋いだ手を引かれるけど口でだけ抵抗して 「お前バカだからなー、」 と、何故か悪口を言われながらも 匡平が後ろから抱きしめてくれる 『なんでバカって言うんだよ』 「だって無駄なこと考えて俺の事拒否してんだろ?」 『無駄なことなんて考えてない、』 おれはちゃんと考えてる それこそ、匡平の人生が無駄にならないように 『匡平っておれの悪口あんまり言わないよな、?』 「いきなりなんだよ」 『バカとか言わないじゃん、そんなに』 「今言ったけどな」 『だから珍しいなって、』 もういいや、抱っこ、と 匡平の腕の中で向きを変えて 匡平と向き合って 匡平の上に乗っかる もう我慢できないし、とそのままきゅっ、と体を密着させると 匡平の体温と匂いでめちゃくちゃ満たされた ここ最近の、ずっとあった不安感でもやもやしたのが一気に無くなる感じがして、同時にそれがすごく悲しくなる あぁ、やっぱりおれには匡平が必要なんだなって 「お前が寝てる時とか1人で言ってたぞ、悪口」 『なんて?』 「あほ面で寝てるなとか、トイレ行かないで寝る悪い子だなとか、バカだな、とか」 『へえ、おれにあほ面で寝てるって言うの匡平くらいだよ』 「そうか?」 『みんな言わないから、顔がいいとかしか』 「みんな祈織の気の抜けたあほ面知らねえからなあ」 ほらよしよし、と匡平はおれの悪口を言いながら背中を撫でてくれて 嬉しくて少しだけ身体を揺らしてすりすりと身体中を匡平に擦り付ける 「なぁ、祈織。もう俺から離れられないだろ?」 『…今だけだよ、』 「んだよそれ、今だけの必要ねえだろ」 『…今だけ甘えてるだけ、』 「なんで俺の連絡だけ無視したんだよ。ヤナギとかあきらくんには返したくせに」 『匡平にはもう返事しないから』 「ダメだ。ちゃんと返せ」 『やだ、』 「返さない理由がないだろ。今だって俺から離れられなくなってる」 『…だから、今だけだって。匡平が目の前にいるから』 「じゃあこれからはずっとお前のそばにいるし」 『そんなんしなくていい』 「なんで」 『時間の無駄だろ、匡平もう40だし』 「40だからなんだってんだよ、別にまだ死なねえし」 『…そうじゃなくて、け、』 「け?」 早く、結婚しなきゃ匡平の家族のみんな心配するじゃん、匡平の事 だって、みんな匡平に早く結婚して幸せになって欲しいって思ってんのにおれなんかの為に割く時間なんてない 『おれ、つむといる時の自分が好きだったんだ。少しだけ』 「…なんだよ、いきなり」 おれは、匡平の事好きだけど 匡平の家族の事も好きだった 匡平の実家に行くとみんな良くしてくれて、 優しくて、 匡平って、ここで育ったんだなって感じる 匡平の家族の事が好きだった だから、おれのせいでガッカリさせたくない、 おれがいるせいで、みんなが迷惑する 『必要とされてる感じがしてた』 「俺だってお前が必要だ」 『でも……おれは、匡平といる時の自分が嫌いだ』 迷惑ばっかりかけている事はわかっている でも、それをどうしようもできない 一緒にいるだけで邪魔になる、 そんな自分が嫌だ、

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