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普通(匡平)

『迎えにこなくていいって言ったのに』 「お前遅いから」 『帰るって言ったじゃん』 「何かあったかって心配するだろ」 もうすぐ0時を回るというのに祈織が帰ってこなくて シバとまだ飲んでんの? と、あきらくんに聞いてしまった あきらくんはすぐに 店のURLを送ってきたから迎えに行くと あきらくんの計らいかちょうどいいタイミングで出てきたからシバを車に乗せたが ふん、とやっぱり不機嫌で いや。俺も束縛みたいだなと 少し後悔している所だった 『なんで店わかったの』 「あきらくんに聞いた」 『へえ、』 「ごめんな、こんな事して」 『…ううん、』 祈織は窓の外を見てため息を吐いた やっぱり鬱陶しかったよなぁ 『なぁ、匡平の家帰ろ』 「…いいけど、なんで?」 『そういう気分』 「じゃあ家行くか、」 と、自宅の方に向かう道を選んで車を進める 『おれさぁ、』 「うん」 『匡平には幸せになって欲しいんだよね』 「…なに、どうしたいきなり」 『いや、最近ずっと思ってるんだけど』 「俺そんな幸せじゃなく見えるか?」 『そうじゃなくて』 「…なに、」 『普通に、幸せなって欲しい。ふつうに人のこと好きになって、普通に結婚して、普通に子供とか育てて』 「…そんなん、別に欲しくねえよ」 なんなんだよ、いきなり もう俺から離れたいって事か、 だから、そんな事言ってくるのかと また嫌な感じが自分の中に広がる 束縛したくない、 でもこいつを手元に置いておきたくて仕方が無い 『ねえ、匡平』 「なんだよ、」 『おれ、匡平に言わなきゃ、いけないことがあるんだけど……聞きたいことかな、』 と、祈織はとても重そうに口を開くから その先を聞くのが怖く感じてしまう 「…運転してるから、後ででもいいか?」 『…うん。匡平の家、着いてから』 「そうだな、」 『うん』 と、祈織はそれっきり何も喋らないで 窓の外をぼーっと見つめていた あぁ、家帰りたくねえなぁ 「コンビニ、寄るか?」 『いい』 と、家に着くまでの道のりの最後のコンビニはスルーして 長かったような、あっという間のような 俺の家に着いてしまった 何度も祈織と一緒に帰ってきたこの家、 エレベーターに乗って部屋に着くと すぐにお互いいつもの場所に荷物を置いた 「先風呂入るか?」 『いや、…あー、うん。やっぱりはいる。今座ったら動けなくなる』 「うん、あー、風呂沸いてねえけど」 『いい、シャワーで済ませるつもりだった、元から』 「あぁ、」 落ち着かねえ、 とりあえずタバコ、と自分を落ち着かせようとタバコを吸う なんて言うか、あいつに もう自分と関わるなと言われた、 もう、自分を解放しろと言われたら はぁ、とため息か、 タバコの煙か白い息を吐いて ビールを冷蔵庫から取り出して飲むと少し落ち着いた気もした 少しすると 『ふぃい、』 と、祈織は気が抜けた声をしながら出てきて すぐにソファに腰を下ろす 『あ、ビール飲んでんじゃん』 「あぁ、」 『飲んでなかったの?おれのこと待ってて』 「いや、別に」 『匡平は?風呂入る?』 「…お前迎えに行く前にシャワーは浴びた」 『そっか』 「うん、」 『ひとくち、』 「お前飲んできたんだろ」 『でも、ちょっとのむ』 「喉乾いたか?」 『うん』 ほら、と飲みかけのやつをそのまま渡すと おいしくないと言う顔をしながら飲んだ祈織 「お前ビールそんな好きじゃないだろ」 『うん、』 「やめときな、おねしょするし」 『…ビール、飲んでないと言い難いことだから』 「そんな事、聞きたくねえ」 『匡平に、聞いて欲しいのに』 と、祈織はしばらくビールをちびちびと飲んでいたが、ビールを置いて もぞもぞと丸くなる 眠そうだな、これは あきらくんとも長い時間飲んでいたようだしな 「お前もう眠いんだろ」 『うん、ねむい、』 「歯磨いて一緒に寝よ。昨日お前のベッドで2人で狭かったろ」 『だって、話さなきゃいけないことがあるから』 「うん。歯ブラシ持ってくるから」 もう寝させてしまおう、と 自分の歯を磨くついでに 祈織の歯ブラシを持ってきて口に突っ込んでやるとモゴモゴと眠そうに歯を磨き始めるから 歯ブラシをとって磨いてやる 「ほら、うがい行くぞ」 『んんー、わふぁっふぇる、』 と、起き上がりたくなさそうな祈織の腕を引いて起こしとりあえず水道まで連れていくと どうにか口をゆすぐ もう寝かせよう 嫌な話は聞きたくない 「おしっこは?」 と、聞いてみるが首を横に振るから そのままベッドに連れていこうとしたがまだ頭が濡れている事に気付いて ソファに1度座らせる 『なあ、匡平、』 「今、ドライヤー持ってくるから。髪かわいたら寝よ」 『おれ、匡平にききたいこと、』 「起きてからにしよ」 『でも、…お、』 祈織が話しているのを無視して ドライヤーを当ててやると何か喋ろうとしていたが声が通らない事に気付いてすぐに口を噤む しかし、ドライヤーが終わると直ぐに 『きょうへいは、おれとしゃべりたくねえの、』 と、むすっとしながら聞いてくる 「そんな事言ってねえだろ。もう眠いだろって」 『眠いけど、』 「だからもうやめよ、話すの」 『おれの話聞きたくないの、』 「嫌な事…話すんだろ」 『…そうかな、嫌な事かな、匡平にとって』 「わかんねえけど」 嫌な事なんだろ、そんな話しずらそうにするなんて 祈織はむすっとしながらすぐにベッドに横になって顔を背ける 「もう寝るか?」 『…うん、』 「怒ってるのか?話聞かないの」 『…悲しい、おれは』 「…ごめんな、」 寝ている祈織の腕を引いて起こして 抱きしめると 嫌がるかと思ったけどすぐに祈織はぎゅっとくっついてきた 『匡平、おれ、匡平の事が、…好き、なんだけど』 「…うん、」 好きだけどなんだって言うんだ、 もう、それ以上聞きたくない 『匡平は、』 「祈織、」 と、そのまま唇を塞いで続きを言えないようにした 『きょ、ぅ、んっ』 「祈織、」 『す、き、きょうへ、っんん、』 俺だってお前の事好きに決まってんだろ

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