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固定観念(祈織)

匡平はおれの話を聞いてくれなかった 話せないまま結局寝てしまって ふと、目を覚まして またちゃんと話せなかった 話を聞いてくれなかったと 悲しくなって涙が滲んだ 匡平、と匡平の方を向くと おれに背中を向けて寝ていて 余計悲しくなって背中にくっついた 「ん…祈織、」 『きょうへい、おきた、』 「うん、起きたな、」 『おねしょ、』 「おねしょしたか?」 『うん、』 「おむつ替えるか、」 と、いつの間にか履かされていたおむつを脱がそうと準備を始める匡平 「何、おねしょして泣いてんの?お前昔からずっとそうだよな」 『…違うし、』 「泣くなって」 と目の横に流れていった涙を拭いてくれる 『匡平が、』 「…俺が」 『話聞いてくれないから』 「…ごめん」 『話、』 「聞くから。ちゃんと。泣くなって」 『ん、』 うん、と頷いていると 匡平はおれの脚を開いたままじっと、こっちを見てくる 『なに、』 「話、あるんだろ」 『…おむつされながら話したくないんだけど』 「…わがままだな」 『匡平デリカシーないよな』 「じゃあおねしょしないようにちゃんと寝る前トイレ行こうなー」 と、匡平はおしりふきでさっさと拭いてくれて おれにもこもこしたパンツを履かせてくれる おむつじゃなくて今度はパンツなんだ、 『なんでおむつしたの』 「お前トイレ行かないで寝ただろ、酒飲んだのに」 『…だって、眠かったから』 「眠くても行く」 と、おむつを丸めて捨てに行って ちょっとしてから戻ってきた匡平 『おむつありがとう、』 「うん、」 『もうちょっと寝れる時間だね、まだ』 「そうだな、」 と、何となく匡平と向き合ってベッドに座ると おむつも終わったし 続きを話さなきゃいけないんだ、と気付いてしまう 「祈織、ちゃんと話聞くから」 『…うん、』 「なに?」 『……おれ、匡平の、こと、』 「うん、」 『…えっと、』 さっきは普通に言えたのに なのに改まると言えなくなってしまう さっきはまだお酒入ってて酔っ払ってたからかな、 『おれ、匡平の、こと、』 「うん、」 『好き、………なんだけど』 と、ようやくさっきと同じところまで言えた 「…あぁ、うん。…さっき聞いた、」 『えっと、それで……』 「俺の事好きなの?」 『うん、匡平が好き、ずっと好き、』 「でも、紬といる時の方が、お前自分の事好きでいられるんだろ、」 『そうだけど…それは、おれが匡平の事好きなのとは関係なくて』 「そっか、」 と、匡平から目線を逸らした 迷惑なのかもしれない、やっぱり 男のおれが、匡平の事好きになるなんて でも、今日はちゃんと匡平の気持ちを聞きたいと決めていたから、 『匡平、おれ、匡平といる時の自分が嫌いなのは…匡平の事が好きでどうにもできないから、』 「…何をだよ、」 『だって、…さっきも言ったたけど……匡平には幸せになって欲しいって思ってるし、』 「だから、そんなお前が固定観念みたいに思ってる幸せなんて俺は要らねえし」 『でも、みんなその方がいいって思うじゃん』 「みんなって誰だよ」 『…匡平の、家族の人たちとか、』 「…それは、まぁ……そうかも知れねえけど…そんなん関係ねえし…お前が俺の事好きだろうか無かろうが、俺は別に他の女と結婚しようとか思わねえから」 『なんで、』 「だって、お前……泣くだろ、俺が結婚したら」 『……泣くかもだけど、』 「だから、結婚しようとかこれっぽっちも思わない。だからこの話は終わりでいいか?」 『でも、』 「でもじゃない」 『じゃあ、』 「じゃあでもない。もう終わりでいいだろ、こんな話、無意味だろ」 『…うん、』 と、言われてしまって結局匡平はおれのこと、どう思ってるのか聞けなかった でも匡平はおれが、泣くからそばに居てくれるだ、 責任感強いから、1度拾った犬をずっと世話してくれるだけなんだ、結局 『匡平におれは必要ないんだ、おれが好きなだけで終わりじゃん、』 「…ごめん、ちゃんと話聞くって俺言ったのにな。またお前の話遮った」 『やっぱりもうやめる』 「やめるって何をだよ」 『匡平の事好きなの』 「なんでそうなるんだよ」 『だって…匡平の家族もやっぱり嫌だろうし…匡平に必要なのは俺じゃなくてヤナギさんだもん』 「なんでそこでヤナギが出て来るんだよ、お前昔からずっとそうだよな」 『だって、ヤナギさんは匡平に必要だけど匡平にはおれはいらないじゃん』 「そんな事ないって。いる。俺にもお前が、祈織が必要だ。昔からずっと言ってるだろ」 『何に必要なの?おれなんも役に立たないじゃん』 「そういう事じゃねえだろ。そんなこと言ったらお前にだって俺は必要無くなる」 『それは違うじゃん、おれはなんもできないから匡平がいないとダメなんだろ、』 「なんも出来なくないだろ。もう自分で住むところも仕事も見つけてきたし」 『掃除とか、洗濯はできなくて匡平がやってくれたじゃん』 「そんなの、俺じゃなくてもいいだろ、家事代行でどうにでもなる」 『…それに、まだおれ、おねしょ、した、』 「おねしょは関係ないだろ、失敗する事だってある」 結局大人なのに、1人前になりきれていない 『…最近おもらしも、したし』 「だからなんなんだよ」 『そんなの、また、匡平のペットじゃん』 「ペットなんて思わねえから、もう」 『じゃあ、おれ、匡平のなんなの、』 「…それは、…俺は祈織の事が、」 『…やっぱり今のなし』 「なんでだよ」 『なんかすげえ女々しい事言った。忘れて』 もうダメだおれ、 結局聞きたいことも聞けないし どうにも出来ないし もうダメだ、と横になると、 「寝よう、祈織」 『…うん、』 と、匡平も横なって さっきは背中を向けて寝ていたのに 今度は向かいあって背中を撫でてくれる 『匡平、』 「嫌いなの、どうにかしてぇな、」 『嫌いなの?』 「俺といるときの自分嫌いなんだろ、俺はそれが嫌だし、すげえ情けねえ」 『…それは、ちがうよ、匡平のせいじゃなくて、おれが、匡平の事好きなの、どうにもできないし…迷惑だから』 「俺に幸せになって欲しいとかいう話の事か?」 『…うん、』 「そんなん普通にこうしてれば幸せだし」 『そんなわけないじゃん、』 「俺だって、お前には悲しい思いして欲しくないって思ってるし。祈織が幸せじゃないなら俺も幸せじゃない」 『…なんだよそれ、』 そんな事言われたら 匡平も、おれと同じみたいじゃん、 『匡平はさ、おれのこと、』 好き?と聞こうとした でもそんなはずないと思った 優しくしてくれるけどおれは男だし 「お前のこと?」 『…なんでもない、』 ごめん、あきらくん やっぱりおれはそんな怖いこと聞けないや 「お前のこと俺も好きだよ」 『………は?』

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