52 / 80

重要視(つむぎ)

祈織さんからは 連絡をしたら案外すぐ連絡が来て謝られた 違うのに、祈織さんは悪くないのに。 おれが、当たり前のことをちゃんと分かってなかっただけなのに。 欲を言いすぎただけだったのに 祈織さんに酷いことを言ってしまった 傷つけてごめんねって、 おれの方が祈織さんを傷つけたのかもって せっかくおれといる時 祈織さんは自分のことを少しでも好きになれたって言ってたのに 祈織さんは、人から思われるより 実はずっと自信が無い人だった おれが祈織さんだったら自信しかないのに ちゃんと働いてて 自分のお家がちゃんとあって、人を住ませられるくらいの経済力があって 仕事だってちゃんとできる人だし 何よりもかっこよかった、顔が でもきっと、祈織さんは そんな事重要視してなかったのかもしれない 祈織さんみたいな顔だったらなんでも上手くいく気もするけど おれがそんなことを考えているのは 自信のなさそうな顔の祈織さんが 社長と一緒にお店に来たからだ 社長の後ろに隠れるようにしてお店に入ってきた祈織さんは 『おはよう、つむ、』 と、祈織さんは言ったけど顔は青くて 「ちょっと車で酔ったみたいだから大人しくさせといて」 と、社長が祈織さんの顔を隠すように頭を引き寄せてしまうから、祈織さんはすぐに下を向いた 『へいきなのに、』 と、祈織さんは小さく呟きながらも 社長についていつもの窓側の席に座った 「紬くんオーダー取りに行く?」 と、マスターは少し気を使ってくれた 『うん、いける』 と、お冷を持って祈織さん達のテーブルに向かうけど祈織さんは体調が良くないのか テーブルに顔を伏せていた 祈織さん、見つかったんだ 連絡きてたからそんな心配はしてなかったけど、 社長と、また一緒にいることにしたのかな? 『ごちゅうもん、』 「モーニングのB…と、祈織は、食えないだろ。飲みだけにするか?」 『んー、』 「じゃあ、ミルクティーにするか?レモネード?」 『アイスコーヒーがいい、暑い』 「だめだ。お前体冷やすだろ」 『…じゃあ、レモネードがいい、冷たいやつ』 と、祈織さんの分のジンジャーレモネードも注文されておれはマスターに伝えるためにカウンターに戻った 「祈織さんは食べないって?」 『祈織さん、具合悪いんだって』 「そっか」 『車で酔ったらしい』 おれは食器の用意、とトーストを焼く、と 自分にできることをしてお手伝いをしていたが 『つむ、』 と、あんまり顔色の良くない祈織さんが よっこいしょ、とカウンター席の端っこに腰を下ろした 「紬くんごめん、ちょっとカウンターお願いしてもいいかな?社長さんにオススメのコーヒー豆、裏から取ってくる」 『え、あ、はい』 と、マスターはきっと気を使って席を外してくれた どうしよう、ちゃんと話さなきゃ、と ゆっくり祈織さんの顔を見た 『祈織さん?座ってなくて大丈夫?』 『うん、あいつ大袈裟なんだよ』 『そう?』 『…おれさ、』 『うん、』 『これからは、あいつと一緒に居ようと思うんだ』 と、申し訳なさそうな顔で 目を合わせずに呟いた祈織さん 『そうなのかなって。思ってた』 『ごめんね、つむに甘えて、傷付けて』 『違うよ、おれが祈織さんに酷いことを言ったんだ。勝手に期待して、気持ちを押し付けて勝手に傷付いただけだから』 『でも、おれはそれに甘えた』 『…おれ、レンアイとか上手くいったことないからわかんないんですけど、……祈織さんが、おれといる時に少しでも幸せを感じてくれてたら、自分に自信を持ってくれてたのが嬉しかったなって、最近思うんです』 『なに、それ。おれのことはどうでもいいじゃん』 『よくないよ、おれは祈織さんが、好きだったから…好きだった人には幸せでいて欲しいし、幸せになって欲しいってやっぱり思うし』 『お前は……いい子すぎんだよ。欲とかないの』 『欲まみれですよ』 『おれのことなんか、恨めばよかったのに』 『恨まないよ、好きだった人だもん』 『おれも………つむには、幸せになって欲しい。散々おれは傷付けた癖に、他の誰かにつむの幸せ託すなんて虫が良すぎる話だけど』 『……おれは、大丈夫です、祈織さんがそう思ってくれただけで嬉しいし。それに、』 『…なに、』 『おれ、男なんで。誰かに幸せにしてもらうとかじゃなくて、ちゃんと自分を幸せにできるようないい男になります』 『……お前は、』 ふ、と祈織さんはようやく少しだけ笑顔を見せてくれた 緊張感が解けたような表情だ 『祈織さんも、自分のこと、大事にしてあげて下さい。祈織さん、自分では気付いてないけど、すごい人なんですよ』 『おれはなんもすごくないよ、』 『そういう所が祈織さんのダメなところです。もっと自分に自信もって、自分を好きでいてください』 『つむ、言うようになったね』 『もう、祈織さんとは友達になろうと思うんで、遠慮しないことにしたんです』 『お前、いい男だね』 おれが祈織さんに言われるほどいい男って自信はあるわけなかった、 でも、見栄を張ることにした 『その、いい男のおれが好きだった人なんですから、大切にしてください』 『…ありがとう、つむ』 『うん…祈織さん、また前みたいに、遊んでくださいね。もちろん、えっちなこととかは、無しで…』 『うん、おれ、えっちなことしない友達ってよくわかんないけど、気をつける』 『……は?わかんないの?』 『うん』 『祈織さんの友達って…んー、あきらくんは?』 『最近はしないけどね、ちょっと触り合いくらいなら、あ、友達だから最後まではしてないよ』 どっちも入れられる方だしねー、と朝からろくでもない事を言い出した祈織さん 『えぇえ』 『きょ、…あいつとも、好きって言う前からしてたし、』 と、テーブル席で待たされている社長の方をちらっと見て言う祈織さん 『え、?え?』 『高校の頃の友達が、友達なら触ったりとかなら普通にする事だって言ってたから、その頃からかな?』 『い、祈織さん、友達は、普通はそういうことしないんだよ』 『…そうなの?え?最後まではしないよ?それでもちがうの?』 『うん。勘違いさせちゃうからダメだよ、友達としたら』 『…ええ?うん、じゃあ、これからは気をつける』 『うん』 『教えてくれてありがとう』 じゃあ席戻るね、と祈織さんは社長のいる席に戻ってしまった さて、おれは祈織さんと話している間に 黒焦げにしてしまった社長のトーストをどうやって隠すかだな

ともだちにシェアしよう!