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松葉杖(匡平)
祈織の脚は捻挫だった
ただ膝の裏の所も捻ってしまっていたから
固定してしばらくは松葉杖の生活になるそうだ
不便だろうなぁ、こんなんじゃ車も運転できないし
ただ会社はリモートで良いと言ってくれた様でそこは安心だが普通に生活するにもひと苦労だ
「あぁ、そうか」
『なに?』
「祈織、戻ってくれば?」
『は?何が?』
「脚、なんも出来なくて不便だろうからうちにいればって」
せめて松葉杖取れるまでとかこっちいた方が俺も安心だしな
『…あー、確かに来月までだしなあ』
と、少し考える祈織
完全に治るのには1ヶ月くらいかかるらしいからなあ
そう言えば散々言ってたけどな、戻って来いって
1度として頷かなかったよな
『うん、そうする』
「は?本当に?」
『匡平が言ったんだろ、それに確かにこれじゃあうごくの大変だし』
「うん。じゃあ仕事道具とか後で取りに行くか。明日から仕事だろ……って日中俺居ねえじゃん。1人で大丈夫か?なんか人呼ぼうか、ベビーシッター的な」
『は?ふざけんな。誰がベビーだ』
「いやいや、なんて言えばいいんだよ、動くの手伝ってもらうのとか」
『日中はおれも仕事してるからほとんど動かなくて大丈夫』
「でもトイレ行くのも大変だろ」
『…早めに行くし。それに匡平以外に連れて行ってもらうのやだ』
「確かにそうだな」
『うん、だからいらない』
「うーん、でも、飯とかなあ…」
『Uberするし』
「…分かった、とりあえず明日は1人でやってみ。俺も昼休憩とか帰ってくるし」
『帰ってきてくれんの?』
「あぁ、やっぱりいた方がいいだろ?」
『違うじゃん、会えるから喜んでんの』
「いや、…そんなん、同じ家なんだから会えるだろ」
『そうだけどさー』
まーいいや、と祈織はソファに横になった
着替えとかだけなら俺が行ってさっさと荷物取ってくれば良いが仕事関連だとどこからどこまで持ってけばいいか分からないしなぁ。
勝手に触るのも行けない気がするし
「あ、祈織おしっこ行ってねえだろ。行っときな。朝ここ出る前にしてからしてないだろ、お前」
今はもう昼前だ
あさトイレに行ってから3時間は経っていた
行く途中にカフェラテ飲ませてたし溜まってる頃だろうな
『おれ匡平にそういうの言われんのやなんだって言ってんだろ』
「嫌なら言われる前に行け」
『そういう意味じゃなくてさあ』
「ほら、早く。一緒に行くか?」
『1人でいける』
よいしょ、と慣れていない松葉杖を使って立ち上がり
よちよちとトイレに向かった祈織
心配でついて行こうかと思ったけど
またおこられそうで
リビングで様子を伺いながら待つ
しばらくすると
ゴン、とかガサガサ
ゴソゴソ
トイレの個室で動き回る音が聞こえてきて
何やってんだ?と恐る恐る近寄る
そして、
『…きょうへいぃ、』
と、情けない声が聞こえてきて
「どうした?漏れたか?」
と、直ぐにドアを開けると
『勝手に開けるなよ、』
と、困った顔をした祈織が振り返る
「お前が情けない声が出すからだろ」
『…どうやってすればいいかわかんない、』
「あぁ、」
確かに
立っても難しそうだし
「座れば?」
『これ持ったまま上手く、回れない』
そこそこ身体が大きい祈織は、色んな所にぶつかって上手く回れなかったらしい
「ほら、手伝ってやるから」
と、まずは松葉杖を預かって
祈織の手を俺の両手を肩に置くと
すぐに身体を支えようと抱きついて来るからそのまま腰を支えてゆっくりとトイレに座らせてやる
『んんん、座んのもひとりじゃ出来ないじゃん』
「ズボン脱ごうなー」
と、頷いたことを確認してから
少しだけおしりを上げさせて
下着とズボンをまとめて下ろしてやると
膝までズボンが降りたら
すぐにおしっこをトイレにし始めた
よかった、間に合ったな、と思ったが
パンツの中のパットが少し薄黄色になっている事に気付く
どうやら1人でトイレでゴソゴソやっている間にちょっと出てしまったらしい
ちょっと間に合わなかったか
『…匡平、パンツ』
「うん、中替えようか」
『…うん』
と、また失敗してしまって気まずそうに目を逸らした祈織
「やっぱり呼ぶか、誰かしら」
『ええ、なんで』
「いや、俺が居れる時は居るけど。そうじゃないとお前が大変だろ。もしなんかあったら俺も心配だし」
『えええ、要らないだろ。つかもういいよ。行こ。おれんち』
「あぁ、そうだな、荷物取りに行くか」
と、着替えを済ませてちょっと怒りながら言う祈織
『帰りにハンバーガー食いたい』
「あぁ、いいな。そろそろ昼飯時だし」
『うん、ハンバーグが本物のやつ。おれの家の近くにUberいて、注文したらうまかった』
「へえ、行くか?」
『うん、いく』
「お前そのハンバーグが本物のやつって言い方変わって無さすぎだろ」
『は?何が?』
「昔からチェーン店以外のハンバーガー食いたい時そう言うからよ」
『だってそうだろ?』
「マックのハンバーグだって本物だ」
『知ってるけどさー』
「よし行くかー。何必要か行く途中でちゃんとメモしておけよ」
『ん。きょうへ、』
立たせて、と松葉杖をめんどくさがって俺の腕を引いて立ち上がる祈織
「…うっわ、」
思わず俺が座りそうになった
『なに?』
「いや、なんかすげえかわいくて目眩した」
『いや。なんだよ、それ。早く行こ。お腹すいた』
「あぁ、」
こいつ本当にかわいいな。どうすっかな
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