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怪我(匡平)
『食いすぎた、苦しい…』
ハンバーガーとポテトのセットにしたら思ったより大きかったようで
帰るなりソファに横になる祈織
こいつ食ってすぐ寝るし
夜中に食うし、炭水化物好きな割に全然太んねえよなぁ
俺は年齢的にも太らないようにだいぶ気を使っていると言うのに
今日だって久々の炭水化物だったな、そういえば
「気持ち悪くなってねえか?」
『それは大丈夫だけど、』
「水飲んどけよ。胃もたれするぞ」
『んー、むり、お腹パンパンだから水も入らない』
と、ごろごろと横になって苦しくなくなるのを待っている祈織
「お前太んねえよなぁ」
『筋肉もつきにくいよ、その代わり』
「あぁ、そういやそうだな」
ねむ、とおなかいっぱいで次はやっぱり睡魔のようでうとうととし始めた祈織
おなかいっぱいでねたら苦しいだろ、と
腹の辺りを撫でてやると
祈織は寝ようとしていたのに
目を開きじっと俺の事を見てくる
「どうした?」
『いや、幸せだなーって』
「は?」
『きょうへいが、おれに優しくしてくれて』
「……俺はいつも優しいだろ」
『そうだけどそうじゃないじゃん』
来て、と手を広げて
更に甘え出す祈織
「どうした?」
『今おなかいっぱいでエッチできねえから隣にいて』
「昼からエッチしねえよ」
『おれはいつでもしたいよ』
「せっかく休みだし隣ずっといるから安心して寝な」
『せっかく休みなら出かけたかったけどなあ』
「行ったろ、病院とハンバーガー」
それに祈織が怪我してなかったら休むつもりはなかったしな
『じゃなくてデート』
「足治ったら行こ。連れてくから」
『温泉行かね?昔何回か連れてってくれたけど最近行ってねえじゃん』
「そういやそうだな、行くか」
『うん。草津』
「草津なら1泊とかで行けるな」
『うん。行こ』
「休み調整しとく」
『楽しみ増えた』
なんでこいつこんなかわいいんだ?
大丈夫か?
『早く足治んねえかなあ』
「いっぱい食ってたくさん寝な。あとは無理しない」
『んー。頑張る』
とりあえず寝よ、と祈織は俺の腕にくっついてねようとするから
「俺も一緒に寝るからベッド行こ」
『お昼寝?』
「あぁ、そうだな」
『匡平お昼寝しねえのに珍しい』
「いいだろ、たまには」
『うん』
祈織の身体を支えて起こして
一緒にベッドまで向かい横になると嬉しそうにくっついてくる
食った後すぐ寝ると太るよなあとちょっと思ったが祈織が嬉しそうにだから良しとする
よしよし、と背中を撫でていると間もなく寝てしまう祈織
なんか、帰ってきたな、こいつ
◇◇
祈織はまだ寝ていたが
俺は目が覚めて
飲み物を取りに行こうとリビングに向かう
そういえば祈織の荷物そのままだったな、
仕事のものはあとで祈織に自分のわかりやすいように自分で片付けさせるとして
着替えとかはどうせ俺がしてやるし片付けとくか、と荷物を開く
こっちにも着替えあるしそんな持ってこなくて良かった気もするけどな
スーツケースを開けると
ごちゃごちゃに入れられた着替えに
髭剃りやらスキンケア用品
そういやあきらくんに連れられて化粧水とかよくわかんねえのコイツこだわってたよなあ
それと充電器の数々に
あとは、なんだ、この箱、と
小さい箱を見つけて
なんとなくそれを開ける
「…ん、だよ、こんなの」
まだ持ってたのかよ
こんなの、とっくに捨てたと思ってた
なんでわざわざ持ってきたんだよ…
そろそろ起こすかな、あんまり寝ると夜眠れなくなるし、と寝室に戻った
「祈織、そろそろ起きよ」
『んんん、匡平、』
「おはよう。コーヒーでも飲まないか?」
『のむ、おれいれる、』
「今日は俺がいれるから。お前脚痛いだろ」
『んんー、おれの役割なのに、』
と、まだ眠そうに起き上がる祈織
こいつなんもないといつまででも寝てるからな、
『おれの杖は?』
「あぁ、リビングだろ」
『歩けないから匡平手伝って』
「そのつもりだよ」
『うん、』
ベッドから降りる祈織の手伝いをして
そのままリビングに向かい、ソファに祈織を座らせる
『おれコーヒー上手に入れられるようになったのに持ってくんの忘れた』
「何が?コーヒーいれるやつなら家にあるだろ?ミルとか」
『じゃなくて最近買ったやつ。サイフォン。』
「サイフォンって喫茶店にあるやつだろ?」
『うん。フレンチトーストの所のマスターに教えて貰って、最近だいぶ上手に入れられるようになったのになー』
「へー、そんなんできんだ、祈織」
『うん、教えて貰ったら楽しかった』
「つかあの弟子の子と仲良いんだな、お前」
『仲良いって程でも無いけど。つむが働いてるからその繋がりで』
「あー、」
『つか匡平ずっと弟子の子って言うけどもうマスターだからね、あの人』
「いや、先代の頃から通ってるからなんとなくな」
『まぁそうだったけど』
「あの子昔から祈織に優しくしてくれてたろ」
『…そうだっけ?』
「そうだよ、お前朝とかぐずぐず泣きながら行ったりするから動物のコースター出してくれたり」
『……泣いてないし。覚えてないし』
「祈織よりちょっと上なのかな、あの子」
『…もうマスターの話はいいじゃん。コーヒー。コーヒーのも、いれてあげる』
「立ってるの辛いだろ」
『それぐらいできるって』
「手伝うよ」
『うん』
祈織がうちでコーヒーいれてくれんの久しぶりだな、
脚を怪我して不便だからその間こっちにいるだけなのに
なんとなくこの家に祈織が帰ってきたような気になった
『なに、匡平変な顔して』
「いやべつに」
『なんかあった?』
「…なんもねえって。祈織のコーヒー久しぶりに早く飲みたいなって」
『やっぱりおれの役割だろ、コーヒーいれんの』
「そうだな、ありがとな」
『でもつむがいってたけどマスターの方が上手だよ、おれよりコーヒーいれんの』
と、何故か少し寂しそうな顔をした祈織
そりゃ本職の人に比べたらそうかもしれないけど
「でも俺は祈織がコーヒーいれてくれんのが嬉しいからなぁ」
『匡平はおれがいれたコーヒー好きだよね』
「当たり前だろ」
『じゃあこれからはまた、おれが毎日いれてあげるね。こっち戻ってきたし』
「あぁ、ありがとう。足無理しない程度にな」
『うん、早く治したいし』
足治ったらまたこいつ自分の家に帰るんだよなあ
ずっと居ればいいだろ
そんな事を今こいつに伝えるのは
まだ、欲張りすぎるよな
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