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鈍感(匡平)

仕事が長引いて 祈織と約束した時間に間に合いそうに無かった 家に食べ物は置いていなかったし お腹を空かせてしまう、と悩んでとりあえずいつもの店でナポリタンのテイクアウトは予約した そこにちょうど通りかかったあきらくんを捕まえ、ナポリタンを時給としてとりあえず俺の仕事が終わるまで家まで行ってもらうことにしていた あきらくんは昼飯浮いてラッキーと行っていたが さすがに申し訳無くなり 仕事が落ち着いた所で スタバで季節限定のフラペチーノとクッキーを2つずつ、 後は俺のコーヒーとサンドイッチを購入して急いで家に戻った リビングに入るとすぐに祈織と目があって 立ち上がろうとしてバランスを崩した祈織をすぐに支える 『きょう、』 「こら、急に立つな、危ないから」 「社長おつかれっすうー」 「あきらくんごめんな、ありがとな」 「はーい、じゃあオレ会社戻るんで」 「あ、あきらくん、そっちの紙袋のやつ。持ってって」 「わ、スタバまで貰えんすか、ラッキー。高級品」 と、紙袋を覗き込んで嬉しそうに言うあきらくん いや、そんな給料少なくねえだろ 『きょうへい、』 と、情けない声が聞こえた所で 祈織をすぐに座らせた 「遅くなってごめんなー」 よしよし、と頭を撫でてやると 「あー、じゃあオレ退散します。社長また会社で」 と、あきらくんは不味いものを見た顔をしてさっさと帰っていった 「あ、祈織にも同じの買ってきたから」 『うん、』 「怒ってる?約束守れなかったな」 『……ごはん、別に自分でUberできるし、』 「そうか、そうだよな」 『別に忙しいなら無理して帰ってこなくていいし、』 「いや、心配だろ?」 『別に心配しなくて平気だし、』 「動けないんだから大丈夫じゃねえだろ」 『動けなくないし。ひとりでも平気』 ふん、とそっぽを向いて フラペチーノにストローを刺した祈織 これは完全に機嫌損ねたな、 口の周りがまだオレンジだとか おむつの様子は大丈夫だろうかとか 気になる所はあるが 今それを聞いたら余計機嫌を損ねる事は目に見えていた 「祈織、俺も隣座っていいか?」 『…うん、』 許可が出たことを確認し 横に腰を下ろし さて、どうするか、と俺の分のアイスコーヒーに口をつける 『匡平、ご飯は』 「あー、あとで適当に食う」 『…クッキー半分やるよ』 「あぁ、ありがとな」 『うん、』 と、クッキーを半分こしてくれて 俺に触れる距離に座り直し あー、と口の前に出してくる ぱく、とそれを齧ると 祈織はじっと俺の顔を見てきて 『おいしい?』 と、首を傾げながら聞いてくる 「あぁ、うまいよ、ありがとう」 『匡平甘いの嫌いじゃなかったっけ』 「嫌いじゃねえよ。甘いなと思うけど」 『…ふーん、』 「祈織は?くわねえの?」 『食うよ』 「そうか、」 その前にお口がオレンジだからどうにかしてやろうと 「祈織、こっち向いて」 『…なに、』 「ほら、ちょっと黙って、口閉じな」 と、口を閉じさせると 目も閉じたから 今のうち、とおしぼりを袋から開けて 口を拭いてやる 『っんだよ!』 「ケチャップついてんだよ」 『うっさ!そんなん自分で拭けるし』 と、何故か怒らせてしまって 祈織は俺の手からケチャップが付いたおしぼりを取り上げてぐちゃぐちゃに丸めて投げつけてくる 「何怒ってんだよ」 『うっさい。ムカつく。もう匡平仕事戻ったらいいじゃん』 と、そっぽを向いてしまう ちょっと機嫌直ったと思ったがやっぱりまだ怒っているようで思わずため息を吐いた 「…わかったよ。ごめんな、約束守れなくて」 ポンポンと、頭を撫でて 1度仕事に戻ろうと立ち上がる 夜はさっさと帰ってきて思う存分甘やかそう そうしたら祈織も機嫌を治してくれるかもしれない そうだ、好きな食べ物も買ってきてやるか とりあえず会社戻ってさっさと仕事終わらせるしかねえな 『…、』 「じゃあ、仕事戻るから」 と、もう一度祈織の顔を見ると 泣きそうな顔をしていて これは俺が何か間違えた、と足を止めた どうした、と聞いてもきっと答えないだろう 「足痛いか?」 と、多分違うであろう事を聞くと 祈織は下を向いて首を横に振った 『ごめんなさい、わがまま言って』 「…わがままじゃねえよ」 おいで、と手を広げるが 祈織が立ち上がるのは大変だろう、と 再び腰を下ろして 抱きしめると祈織も直ぐに背中に腕を回してくる 『匡平が帰ってくるって思ってたから、会いたくて我慢できなくなってた』 「約束してたもんな、ごめんな」 『…それに、さっき、キスしてくれると思ったのに子供扱いされたの嫌だったんだよ』 「さっき?なんの事だ?」 『匡平鈍感すぎ』 「悪かったよ」 いつの事かわかんねえけど、と祈織を見ると 『口、拭いてくれた時』 と、諦めたように教えてくれる 「あぁ、」 なるほど だから目も閉じたのか、と納得して 「祈織」 『なんだよ、っん、っ、』 と、顔をあげてこっちを向いた祈織の唇にキスをする 『ちょ、いきなり』 「さっき出来なかったろ」 『そうだけど、』 と、手持ち無沙汰なのか俺の手をむにむにとさわって甘えながら言ってくる祈織 『もっかい』 「もっかいなー」 と、おでこと瞼にもキスしてから唇にすると やっぱり笑ったから少し安心した 『ねえ、やっぱりもうちょっとここに居て』 「あぁ、まだ時間あるしここにいるよ」 『うん、』 それにしてもこいつ大人になったな 前は機嫌損ねてもなかなか自分で何が嫌だったかとか言えないで泣いてたのに もうちゃんと言えるようになったのか 少しだけ笑って よしよし、と頭を撫でると 不思議そうな顔で見てくる祈織 『何笑ってるの?』 「いや、祈織大人になったなって」 『なんの事?おれもう大人だってずっと言ってんだろ』 「そうだったな、ごめんな、子供扱いして」 『うん…でも、匡平がそうしたいなら、たまにならいいよ』 「そうか、祈織優しいなあ」 『うん、』 あー、どうしよ。 会社帰りたくねえな、これ

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