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心底(祈織)
信長が、明智が、と
おれがわからない話を匡平と瀧さんが
よく分からない塀の前で話していた
おれはよくわかんないからこのよくわかんない塀はスルーして
面白そうと思ったところを匡平に案内したけど
どうやら失敗だったみたいだ
やっぱり何も分からないおれが案内するより
こういうの好きそうな瀧さんと来た方が匡平は楽しかったんだ
おれもコナンはつむと行ったりしてたしな
『……匡平、おれ先帰ってる、瀧さんともうちょっと見ていいよ』
それなら先帰ってカレー作って待ってよ
「え?」
『まだ見たい所あるよね、瀧さんと見た方が楽しいし。おれそんなわかんないから』
「いや、いいって。帰りたいなら俺も帰る」
「あ、俺もそろそろ帰るんで」
『いいから。見てなよ。おれやることあるから』
と、急いでその場から離れたけど
また失敗したことに気付いた
すげえ態度悪かったかも、おれ
…、匡平の誕生日なのに、
匡平の好きな物なのに
今日は朝から失敗してばっかりだった、
おねしょして、
パンツ隠して怒られて
おもらしもしかけて
さっきもトイレ間に合ったけど心配させたし
匡平の好きな物一緒に見ておれは楽しかったけど
匡平はおれよりやっぱりちゃんと分かってる瀧さんと見る方が楽しいに決まっていた
「待てって祈織、一緒に帰ろ」
と、走ってきた匡平がおれの腕を掴んだ
『…もう見なくていいの?』
「あぁ、全部見た」
『ごめん、おれ調べるの足りなかった』
「なんで?楽しかったぞ」
『瀧さんのが詳しかった』
「でも俺は祈織と一緒に居たいからなあ」
『…おれも、匡平と一緒にいたいけど、』
「そっか、じゃあ一緒に帰ろうぜ」
『…じゃあ一緒にコーヒーのんで買い物したいんだけど、』
「そうだな」
『近くの、コーヒーおいしいところ調べてた、』
「そうなんだ、言えよ。何先帰ろうとしてんだよ」
『だって、』
おれ、1人でいじけてカッコ悪いし…
匡平本当はもっと見たかったかも
こっちだよ、とお店に案内してもやっぱりずっともやもやしていて
「祈織は?何飲む?」
『…コーヒー、つめたいやつ、』
と、匡平と何話していいかも分からなくなってしまった
「ケーキセットじゃなくていいか?」
『夜、家でケーキ食べるじゃん』
「そうだったな」
『…うん、…』
「疲れちゃったか?俺付き合わせて長くなったからな」
『大丈夫、まだ、つかれてない』
「飽きたか?」
『飽きてないよ、』
「それならいいけど。」
と、匡平は砂糖の入れ物を開けたり
おしぼりをくるくるしたりしていて
おれの相手を困ってる
『なぁあ』
「どうした」
『おれ匡平のこと好きだよ』
「…どうした、急に」
『好きなんだけど』
「…ありがとな」
『うん。でも好きでも上手に今日出来なかったなって後悔してるとこ』
「なんでだよ、何が上手に出来なかった?俺は楽しいぞ」
『本当に?』
「あぁ、本当」
『匡平だったらもっと上手くできるのに』
「そんな事ねえよ」
『あるよ』
「…お前の誕生日の時、」
と、匡平がため息を吐いた
『おれの?』
「お前が家に住んで最初の誕生日。俺忘れただろ」
『そんなの、昔の話だし、おれが言わなかったじゃん』
「いや、でも20歳の誕生日だっただろ?」
『その後、お祝いしてくれたじゃん』
「…20歳の男の祝い方なんて俺知らなかったからよ、俺がお前に着せたいプレゼント買って、俺がいいと思う店連れてった」
『うん。大人の行くところ連れてってくれた』
「つまんなかったろ」
『そんな事ないよ』
「でも、俺がいいと思う事をした」
『それが?何がダメなの?おれは嬉しかったよ』
匡平が、おれのことお祝いしてくれて
もう10年以上前だけどちゃんと覚えてる
お祝いしてくれるとも思ってなかったし
してもらおうとも思ってなかった
だから言わなかったのに
匡平はお祝いしてくれてかっこいいスーツを買ってくれて、フレンチのレストランとか俺が行ったことない大人が行くところに連れて行ってくれて
ちゃんとおれを大人にしてくれようとした
なにより、匡平が一緒にいてくれたことが嬉しかった
「お前は、…祈織は、俺の事考えて俺が好きな所一緒に行ってくれるんだなって」
『それが?』
「俺が30歳の時は出来なかった事だよ」
『え?』
「お前の誕生日はじめて祝ったの、ちょうど今のお前位のときだなって」
『あー、そうだね』
あの時の匡平、今のおれくらいなんだ
すげえ大人だと思ってたのに
今のおれは全然大人じゃないな
「だから、今日お前が一緒にいてくれる事で失敗なんてねえし、そんな顔すんな」
『…うん、ごめん、匡平』
と、そのタイミングでコーヒーが運ばれてきて
匡平はすぐに1口飲んだ
「お、美味いな、ここのコーヒー」
『うん、美味しいよね』
「調べてくれたんだろ、ここ。来たことあったのか?」
『何件か、回って決めた』
「へえぇ、お前本当にかわいいな」
『…なんだよ、』
「俺のために調べてくれる祈織かわいいなって」
『かわいいとかやめろよ』
匡平はおれのことすぐかわいいとかいうよな、
おれは男だしかわいい年齢でもねえのに
「お前かわいいだろ」
『かわいくねえよ』
「うそだろ、自覚ねえのかよ」
と、匡平は心底驚いたような顔をしたから
照れくさいしなんか否定するのもめんどくさくなった
『もういいよ、かわいいでも』
「俺のために頑張ってくれてんのすげえ嬉しいよ」
そう言って匡平は頭を撫でてくれた。
匡平に頑張ってんのバレた
サラッと全部上手にやってるように見せたかったのにな
『匡平はおれがかわいかったらそれでいいの?』
「あぁ、お前がかわいかったらそれでいい」
なんだそれ。おれ頑張ったのに
なんか今日おれ変に頑張りすぎちゃったから
匡平は物足りなかったのかもしれない、
もうこの後は甘えよう
匡平もおれに甘えられるの好きだし
せっかくの匡平の誕生日なのに可愛げが足りなかったのか、そうか。
甘えてやろ。つか甘えるってどうやるんだっけ、おもらしとか?
おれはおもらし失敗だと思うけど、
匡平に甘える1番の手だと言うことだけは知っていた
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