2 / 5

「部長、最近良い事ありました?」 お茶汲みの女子社員がサボっているので、自分のを淹れるついでに、後輩の仲野君が俺の分のお茶も持って来てくれる。 「?ぅん?」 お茶をデスクの片隅に置きながらの質問は、何の脈絡も無く振って来たので、一瞬頭がフリーズする。 「や、最近やたらと…嬉しそう、って言うか?」 『あ』 そう表現されて、思い当たる理由は、一つ。 しか、ない。 「まぁ、アレだ。」 敢えて報告するような事でも無いが、そんなに感情が滲み出てしまっているのなら、一人くらい知ってて貰った方が、何かと都合が良いかもしれない。 仲野君なら口も硬いし、余計な詮索もしないし、何より“同類”だ。 「恋人、が…ね、出来て」 照れ隠しに、お茶を一口(すす)った。 「…マジ…すか」 飲みかけたお茶を口に付ける寸前に、今度は仲野君がフリーズする。 「多分、そのせい」 言いながら、自分で照れてしまう。 仕事に集中しなきゃいけないのに、こうして友弥を思い出して、他人にバレるほど顔がニヤけている自分が、自分じゃないみたいで、大人気無くて恥ずかしい。 こんなに自分をコントロール出来なくなった事なんて、初めてだ。 「ずるぃ…」 その声を聞くまで、仲野君の存在すら忘れていた事に気付く。 「部長ばっかりずるい!! え、どこで知り合ったんすか!? 俺にも誰か紹介してくださいよー!!」 あれ?仲野君て、こんなキャラだったっけ? 「まぁ落ち着きなさいよ。 仲野君、恋人居なかったっけ?」 「うぅ…3ヶ月前…別れました…」 項垂れて涙目になる仲野君が、少し可哀想にはなったけど、あのハッテン場を紹介するには、まだ、 なんとなく躊躇された。 仲野君はきっと、ちゃんと恋愛をして、お付き合いをしたいのだろうから。 「そうか、それじゃぁその疵が癒える頃また、考えるよ」 「そぉんなぁ~ 失恋の疵は、新しい恋で癒えるって言うじゃないですかぁ!」 確かに、そうとも言う。 が、仲野君とハッテン場が、どうも俺には結び付かなかった。 「分かったよ、今度な今度。 ほら、仕事しろ」 「えぇ~約束ですよぉ~?」 渋々戻る仲野君の後ろ姿を見送った後すぐ、携帯のメール着信音が鳴る。 開いてすぐに映し出される送信者の名前 『永倉友弥』の文字を見るだけで、心臓が跳ねる。中学生か、俺は。 そうして苦笑いを零して、文面を確認すれば 『洸太お仕事お疲れ様。 今日は泊まりに行けそうだよ。 夕飯、何が食べたい?』 の文字。ラブメール。 「ッ!!!!」 咄嗟に口を手で隠しながら、狂喜の声と、ニヤニヤする顔を抑える事に集中する。 危ない危ない、会社で叫んでしまう所だった。 『友弥♪』 仕事中なので、それだけ書くと即返信した。 * * * * * * * 「ぁ。アン!ぃい、イ、イ。ん。 イ、ック…」 背中越しに聞く友弥の甘い声は、何度聞いても全く慣れない。 毎回、堪らない。 俺の止まらない欲を全部受け止めて、背中を仰け反らせながら全身を震わせてイク友弥。 その瞬間の、ビクビクとした締め付けに煽られて、俺もほぼ同時に果てられるのが嬉しかった。 「ぁ。は、ぁ、ンは。」 やっと息をしてる友弥の口唇を塞いでしまうのは、意地悪でも何でもなくて、ただ、自制が効かないからだ。 「ぅ。んふ。んン…」 甘く柔く、(とろ)けそうな友弥。 苦しいハズなのに、俺のキスを受け止める。 舌を、受け入れる。 そして上下する胸が、また俺の欲を駆り立てるのだ。 「友弥ぁー、おかわりー」 息も整わないうちから、繋がったままのソコを再び揺り動かす。 「あン。だ、メ、だって、ば。 休、ませ、て…ンんッ」 チュ、チュ、と音を立てて、友弥の背中に痕を付けて行く。 俺のマーキング癖。友弥と出会ってから、付いた癖。 友弥は、尋常じゃなく可愛いから。 本当は、女の子にもモテてるハズだから。 だからこうやって、首とか鎖骨とか顎とか、 見える所にもわざと付けてやる。 「洸、太ぁ」 名前を呼ばれてハッとする。 いけね。見えない誰かにジェラってて、友弥を見てやれてなかった。 俺、ヤバイ人になっちまう。 「ごめ。辛かった?」 友弥は俺を涙目で見つめてて、お陰でちょっと冷静になれた。 「うぅん。」 やっぱりまだ繋がったままだから、ちょっとした言葉も濡れててエロい。 俺のソコは、友弥と居るだけで硬くなるのに、中に入れば、友弥の熱で蕩けそうになる。 それを身を(よじ)って友弥が引き抜いた。 「洸太、は、」 「うん?」 「ちゃんと、俺が、好き?」 「…はぃ?」 息も、整わないまま。 「それとも、俺の、身体が、好きなの?」 とうとう溜まっていた涙が、友弥の頬を伝って零れ落ちた。 「…なんでそうなった?」 “なんで”じゃねぇ。 原因は、俺にしかねぇじゃねぇか。 「だ。ッ、だっ、て」 ぼろぼろ溢れ出す涙を、指で拭き取るだけじゃ足りなくなって、布団で拭ってやる。 「ごめん。本当、ごめん。 …不安…、だったんだよな? 俺が、身体ばっかり求めてるって、思わせちまったんだよな?」 友弥は優しいから。気遣い屋だから。 俺なんかでも、傷付けたくないから。 『うん』なんて絶対言わない。 「そんな、事」 「あるよ。俺、友弥が優しさで、そう言わないの分かってる。 分かってて、そこに、どっぷり甘えてたんだ。 自覚無かったけど。 だから、友弥に、辛い想いさせてたんだって、 友弥が今、勇気出して言ってくれたから、 分かったんだよ?」 言いながら、抱き締める。 こんな事、言わせてしまうほどに、俺は友弥を、 追い詰めてたん、だな。 さいてーだ。俺。 「俺、は」 抱き締めた俺の背中を、友弥が抱き返す。 しがみつくようでいて、(なだ)めてくれているようにも感じた。 「そうやって、俺の気持ちを、俺以上に汲み取って、想いやりすぎるくらい想いやってくれる洸太が、大好きだよ」 じわり。心に滲みて行く。 こんなに想ってくれてる恋人を、俺は泣かせてしまったのだ。 不安がらせてしまったのは、おれの中の、“焦燥感(しょうそうかん)”みたいな感情のせいだろうか? 誰かに盗られてしまうかもしれない。と、 焦るようになった根本的な原因って、何だったっけ? 「…そ、っか」 ふと思い至って、抱き締めていた腕を緩めると、友弥と顔を見合わせるように両肘を突いて身を起こす。 「友弥、一回しか言わないから、良く聞いて」 「ぅ、ん?」 こんな恥ずかしい事、もう二度と言えない 「俺、多分、友弥に夢中なんだわ。 で、こんな感情的になるのも、自制効かないのも、見えない誰かに嫉妬すんのも、今まで経験した事無くて、初めてだらけで、 自分の知らない自分ばっかりが、友弥と居ると出て来るようになって。 だから俺、俺が、俺でなくなるのが、怖かったんだと、思…、ぅ」 我ながら、なんて恥ずかしい告白。 どんだけメロメロなんだ、俺。あぁ…恥… 自分でも顔が真っ赤になってるのが分かる。 この年になって、こんな事が起きるなんて、誰が想像した? 友弥と向き合ってたハズなのに、結局恥ずかしくなって目を逸らしてしまったし。 でも友弥の反応が知りたくて、恐る恐る視線を戻すと、友弥まで俺の赤面が伝染したみたいに真っ赤になっていた。 きっと、俺達って色んな事を共有してしまうんだろうな。 相手を想うあまり、相手の感情まで伝染してしまう。 不安も、照れも。 愛情も。 「洸太、そんなに…?」 嬉し涙を浮かべた友弥の涙を、今度は舌で絡め取ってやる。 「そう、そんなに。 俺は、友弥を愛しちゃってんの。 だからきっと、身体も心も一つになりたくて、 求めすぎてたんだと、思う。」 自分でもセーブ出来ないほどにね。 これはしばらく解決出来そうもないけど、そこは黙っておこうと思う。 「好きすぎてごめん。」 「何それ」 やっと笑った友弥の笑顔は、今までで一番柔らかくて、一番綺麗で。 「だから、おかわり、良いですか?」 おれのチンコはパンパンになった。 * * * * * * * 「部長~~~~~」 今日も朝イチから仲野君の呆れた声。 「顔、出てるから。 幸せオーラ出てるから。 シャキッとしてくださいよォ~?」 忠告してくれて助かった。 もう、幸せすぎてオカシクなりそう。 「あ」 「はい?」 お茶だけ置いて出て行こうとした仲野君に声を掛ける。 「良いハッテン場知ってるんだけど。 興味、ある?」 ハッテン場と繋がらない仲野君だけど。 もしかしたら、俺達みたいな出逢いが無いとも言いきれない。 俺が、勝手に仲野君のイメージを決め付けてるだけで、出逢いの場を無くしてしまうって事も、無いよなぁ、なんて、思えるようになったのは、 やっぱり友弥のお陰だと思う。 「あります!!!!」 元気一杯返事する仲野君は、やっぱ俺が思うよりタフなんだなぁと、改めて実感した。 だからどうか、仲野君にも、幸せが訪れますように。と、願わずには居られなかった。

ともだちにシェアしよう!