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ホテルから退出する時、気に入った相手だったら一緒に退出して、気に入らなかったら先に出る。 と言うのが、僕のポリシーだ。 今回は、相手がシャワーを浴びている隙に退出する。情事の後、先に浴びといたのは、この為だ。 もちろん声なんか掛けない。 短小、早漏。久しぶりにハズレを引いた。 唯一の救いは、“休憩”で入室した事だ。 「はぁ~ぁ。」 思わずため息が溢れる。 中途半端で、スッキリ出来ないまま帰りたくなくて、腕時計で時間を確認してみる。 PM9:52。 まだ間に合うかもしれない。 残業組が来ないかと期待を込めて、本日二度目の“ハッテン場”へと足を進めた。        *        *        *        * 夜に来るその場所は、暗がりの中でも『見つけてくれ』と言わんばかりに、数台並んだ自動販売機の光に照らされ、目印のように明るい。 そしてその光が、遠目でも分かるように先客を照らし出してくれていた。 さっきの事もあったので、あまり期待をしないよう、自分に言い聞かせる。 足音で気付いたのか、『彼』は俯かせていた顔を上げて、こちらに目を凝らしているようだった。 暗がりから歩いて来た僕の姿はきっと、ほとんど分からないだろうけど、僕から彼は丸見えで。 中々の長身とスーツのセンス、真面目風な六四分けに、ちょっと地味目な顔は、僕のタイプにかなり近く、ついうっかり期待を膨らませてしまう。 「こんばんは」 姿が確認出来るほど近くなって、声を掛けようと思った瞬間、先を越された。 「こんばんは」 それがなんだか嬉しくて、つい顔が(ほころ)んでしまったのが、自分でも分かった。 『待ち合わせ?』 『通りすがり?』 色んな思考が巡るけど、そんなのわざわざ尋ねなくてもすぐに分かる。 「え 、っと ゲイ専用ハッテン場って ここで合ってます?」 少し照れながら、それでも勇気を出して尋ねて来る彼から得られた情報は 『僕と同類』 って事と 『今日初めてここを使う人』 って事。 内容から察するに、誰かの紹介だろう。 「合ってますよ」 にこやかに返せば 「あ 良かった 教えて貰ったまでは良かったんですが 誰も居なかったから不安になっちゃって」 その言葉は、来たばかりだった事を暗に教えてくれる。 タイミングも良かったみたいだ。 誰かに捕まる前で良かった、と安堵の息を吐いてから 「で。どうする?僕にしとく?」 あざとく彼の腕へと手を伸ばし、肩から肘までを撫で下ろす。 「ぁ え、 はい。 ぉおお、お願いします」 なんて(かた)くなる所も、期待に胸が疼く。 「じゃぁあ、これからどこ行こっか?」 一度ヤッて来たせいか、ちょっと余裕もあって、今回は彼に任せる事にした。 「あ、えと、じゃぁ…」 キョドるのは、彼の癖なんだろうか? まぁ、可愛いけど。 「腹減ったんで、ファミレスで良いですか?」 「…はい?」 想像を超えた返答に、間抜けた声が溢れたけど 『ぐぅ』 と鳴った腹の虫が、自分も空腹だった事を知らせてくれた。 そういえば夕飯、食べ損ねてたかも。 「はは、丁度良かったみたいですね」 そう言って柔らかく笑む彼の笑顔が、なんだか暖かくて、不覚にも一瞬、見蕩(みと)れてしまった。 * * * * * * * 夜のファミレスはほとんど(まば)らで、それでまた少し気が抜けて行く。 案内された席で向かい合わせに座ると、明かりの下でお互いの姿をハッキリ確認出来た。 うん。思った通り、タイプ、だな。ラッキ♪ 暗がりで見るより明らかに男前だったその人も、僕の顔を確認した途端、頬を赤らめる。 うんうん。良いね、その反応♪ あの場所で会った他の男達も、大抵僕の容姿を褒める。『可愛い』だの『綺麗』だの。 そう言われて悪い気はしないし、そのお陰で相手も直ぐに見つかる。 例え競争相手が居たとしても、僕の方を選ぶ男がほとんどだ。 だから自分の容姿は好きだし、それを武器だと思ってる分、褒めてくれる相手でないと、ソウイウ気にならなくなってしまっている所も、あったり、するんだけど。 これはもう多分、治らない、な。 ほんのちょっと気分が落ちそうになった所を、彼の言葉が(ふさ)ぎ止めてくれる。 「暗がりじゃ分からなかったけど、君、すごく… 美人だったんだね」 聞きたかった言葉を聞けて、気持ちが浮上して行く。 良かった。この人は、ちゃんとソノ気にさせてくれる人だった。 また合格点を出して行く彼に、気を許してしまいそうになる。 まだ駄目だ。実際に肌を合わせてから、またガッカリしたくないだろう? そう自分を(いまし)めてから 「ありがとう。貴方も、男前だと思うよ?」 表現が古いか?と思いつつも、にっこり笑顔のサービスを付けてみる。 「ありがとう。 第一印象は、いつも褒められるんだよね」 なのに浮かない表情をされてしまった。 初対面だもの、地雷踏んだって仕方ない。 「気に障ったなら… ごめん、ね」 だけど、僕の好きな顔が歪むのは、なんだか嫌な気分だ。 その気持ちが、知らず知らずの内に、僕を必要以上に素直にさせていた。 「いや、違うんだ!」 慌てて(つくろ)うように僕の眼を真っ直ぐ見てから、でもすぐに、俯くように逸らしてしまった。 「最近、振られた、ばっかで」 視線を下げたまま、ちょっと笑う。 自嘲、なのかな。 切な気に笑う笑顔までもが、益々僕の心を捉えて行く。 “振られた”って言葉に、浮かれてしまう。 「で、自暴自棄になって、“ハッテン場”?」 だったら、嫌かも。 でも、それでも 良いかも。 僕の心が定まらずに、揺れ動く。 「違う!」 期待する言葉が振って来る度、僕の気持ちの天秤は【好き】へと傾いて行く。 うっかり、期待を、してしまう。 「彼を、忘れるために、新しい、恋人を 探したくて…」 胸が、高鳴る。 良いな、この人。 誠実そうで、真面目そうで。 1回ヤッてオシマイ、とか、そういうカラダの関係じゃなくて、心で繋がれそうな、淡い期待を、予感を、させる人。 「僕、」 言いかけたら 「ご注文はお決まりですか?」 ウェイトレスが邪魔しに来た。 * * * * * * * それからは、終始無言で食事を済ませて、店を出る事になった。 もっと、話したかった。 もっと、声を聞いてたかった。 彼のこの状態だと、この後セックスまでするかどうかすら怪しい。 ただ食事して、このまま別れる可能性だって、無きにしも非ず、じゃないか。 『嫌、だな…』 “まだ”  “もう少し”  “一緒に居たい” なんて 初めて思った。 「この後、って」 彼が先に、言葉を発する。 「どう、しますか?」 「ぁ」 声が漏れてしまったのは、無意識だった。 まだ、一緒に居て良いのか。 僕を、受け入れてくれているのか。 嬉しくなって、また気が緩む。 甘えてしまおうか、と、欲まで湧いて来る。 いつもは、というより、他の誰にも、こんな感情なんて沸かなかった、のに。 不思議な魅力を、感じる人。 それで僕は、いつものペースを崩されて、こんな… “純”な感じになってしまっている。 なんだか急に、悔しくなって。 「ラブホ、行こうよ」 動揺させたくなってしまった。 「ふぇ!?」 はは。良いね、この反応。 望み通りの反応が帰って来て、気を良くする。 「僕と、シたくない?」 追い打ちを掛けるように、身体を寄せて肩まで伸ばした髪を掻き上げて、下から顔を覗き込むように、上目遣い。 これ、結構キクらしい。 「…ッ!!」 顔を真っ赤にする彼を、名前で呼んだらもっと効果的だと思い至って、そういえばまだ呼び名も聞いていないと気付く。 「ねぇ、貴方の事、なんて呼んだら良い?」 そっと胸元に手を置いて、首を傾げる。 うん。ペース戻って来た。 僕はやっぱり、暗がりの方が思い通りに振る舞えるみたいだ。 「(なか)()泰弘(やすひろ)。です」 あ。緊張して、本名言っちゃったな、コレ。 はぁぁ~。可愛い。 「やすひろ」 わざと耳元で名前を呼んでみる。 ピクッ、と身構える肩が、僕の胸を震わせた。 「僕は司。(いずみ) (つかさ)、だよ。 つかさ、って、呼んで」 固まった肩に頭を預ける。 「本名、言っちゃった。 こんな事、誰にもした事無い。 泰弘だけ。特別、だよ」 言ってから、目の前にあった顎にキスをした。 「あ。あの。ぁぁぁあの。」 耳から首から、全部真っ赤。 めっちゃ動揺。可ぁ~愛い♪ 「俺。初めて、なんですけど」 「へ」 思わず見上げる。 「それでも、 良いですか?」 「ど。」 『童貞君!?』 その言葉は声にならず、口唇だけがパクパク動いた。 その反応を“否定”と取ったのか、泰弘は一気に表情を曇らせて行く。 「…です、よね。 童貞なんて、面倒くさい。です、よね。」 顔を背け、『それじゃぁさよなら』とでも言うように、僕の身体も引き剥がされる。 「ぁ」 街灯の薄明かりで分かる。 瞳には涙まで滲んでいるようだった。 多分、だけど。 そこまで傷付くのは、もしかして… すっかり背中を向けてしまった泰弘の腕を掴もうとしたけど、掴み損ねてスーツにしがみついた。 「もしかして、それ、が、別れた理由?」 握ったスーツはシワになってるけど、離す気なんか毛頭無い。 「…まぁ」 振り向きもせず、短く返答されて。 言葉を発するより先に、鳥肌が、立った。 この、真っ新(まっさら)な恋しい人を、この人の全てを、一から全部、僕の色に染めてしまえるかもしれない。 そう思ったら、全身が喜びで打ち震えた。 たかだか“童貞”ってだけで、手順を知らないってだけで手放した誰かを、愚かだと(さげす)みながら、同時に感謝する。 『この人を、僕にくれてありがとう。』 素直にそう思えたら、なんだか泣けて来た。 嬉しくて嬉しくて、泰弘を背中から抱き締める。 「つか、さ?」 上から覗くように振り返る泰弘が、街灯の光を遮ってくれて助かった。 こんな事で泣いてるなんて、恥ずかしくて知られたくない。 だから本当に、掻き(むし)るように、(すが)るように思いっきり抱き締めてから 「泰弘を、僕にください」 無意識にそんな、プロポーズみたいな言葉を吐いていた。        *        *        *        * ホテルに入室してすぐ、TVの電源を入れる。 これで少しでも泰弘がリラックス出来れば良いと思った。 時間も23時を回ったせいか、バラエティ番組が多くて、僕の思惑を手助けしてくれる。 「お茶、飲む?」 「ぁ。うん。」 ホテルも多分慣れていないであろう泰弘が、緊張で固まっているのでお茶を淹れる。 今度は宿泊。初めてだと言う泰弘が、焦って失敗したりしないように。 トラウマにしてしまわないように。 ゆっくり付き合う気で宿泊にした。 あと、もう一つの理由は、ただ、一緒に居る時間を、少しでも長くしたかったから。 こうやってトキめくセックスをするのは、何時(いつ)ぶりなんだろう? 今日2度目のホテルだって言うのに、否、ホテルなんて何度も利用してるのに、初めて入るみたいに落ち着かない。 うん、そっか。 “泰弘と”だから、落ち着かない、んだな。 自分で思い至って、独りで照れる。 部屋の明かりは、ムードを出すために薄暗くしてあったから、赤く染まった顔が丁度隠れて、“余裕”も装い易くなっていた。 「はい、お茶」 2人掛けのソファに座る泰弘に手渡してから、隣に腰掛ける。 「ありがとう」 受け取ってすぐ口を付けてしまうのは、緊張してるからなんだろうな。なんて思ったくせに、自分もほぼ同時に口を付ける。 「緊張、するね」 そう言いながら、視線を自分の持つ湯呑から離せない泰弘を、やっぱり“可愛いなぁ”と思いながら、綺麗な横顔を眺める。 良い景色。ずっと眺めてたいよ。 と、ふと気付く。 「あれ。敬語、消えてる」 「え。あれ?本当だ」 弾かれたように僕に向き直って、やっと視線を合わせる事が出来た。 やっぱ正面から見る泰弘が、一番良いや。 「告白、してから?」 敬語の消えた瞬間を思い出しながら答える。 少し間があって、また康弘が優しい笑みをくれてから 「違う。 司が、俺を受け入れてくれてから」 その笑みが照れに染まった瞬間、堪らない気持ちになる。 「やっぱ好き」 無意識に溢れた言葉を追うように、泰弘にしがみつくようなキスをした。 口腔内に差し込んだ舌で、泰弘の舌を嬲る。 緊張して硬くなってる舌を、撫でるように()り合わせて行くうちに、だんだん柔らかくなって行く。それを(すす)って、また嬲ってを繰り返して行くうちに、泰弘も真似て僕を求めて来るようになる。 僕の好きなやり方。 覚えたてのキスを、精一杯返してくれるから、僕もちゃんとキモチイイ。 悦すぎて、溶けそうになって、 呼吸を忘れそうになる。 「ぅ、ン」 鼻から漏れた息が熱っぽさを帯びて、僕の気持ちを煽る。 泰弘の頭を抱えていた腕を解き、首を伝って胸元の突起を探す。 シャツ越しに触れた胸元は、痩せているようでもしっかり筋肉が付いていて、緩やかに盛り上がった筋肉から突起を探すのは、思ったより随分簡単だった。 キスで感じてくれていたのか、すでに隆起していた先端を指先で掻く。 「ン、ゥん」 ピクンと弾ける上体が、泰弘も感じている事を僕に伝え、更に僕の欲を煽って行く。 コリコリと引っ掻く度に反応し、キュッと摘むとキスをしていた舌を軽く喰まれる。 そして勉強熱心な泰弘は、同じ事を僕にしようとするのだ。 「ンん。ぁ、ン」 それが、妙に器用で、僕の悦い所を上手に見つける。 本当に童貞なのか、疑わしく思えるくらいだ。 両手で同時に突起を摘まれて、仰け反る。 「あ。ぁ、ソレ、だめ、ぇ」 喘ぐのに忙しくなって、いつの間にかキスも途切れてしまっていた。 「コレ?コレが悦いの?」 純粋な質問に 「ャッ、あぁッ」 喘ぎで応えて 「司、色っぽ…ぃ」 言葉でも攻められて、身を捩る。 「ばか、ぁ」 もう、身体が泰弘を欲して止まない。 のに、中々先に進めないもどかしさと快感とが、どんどん身体の中に蓄積されて行く。 「やす、舐、めて」 快感に震える手で、自分のシャツのボタンに手を掛ける。 「あ。待って」 それを制されて 「ベッド、行こう?」 (とろ)けたまま、お姫様だっこ。 本当、あの筋肉は伊達じゃなかった。 僕だって男だから、オンナノコみたいに軽くないのに。 泰弘は軽々と僕を持ち上げて、ベッドまで運んでくれた。 そしてそのまま 「脱がしてあげる」 ニッコリと、楽しげな表情を寄越す。 「やす、本当に童貞?」 思わず確認してしまうほどに、行動が男前で困る。 「はは。当たり前でしょ。 でも、司が可愛くてさ。色々考えるより、欲求の方が大きくて。身体が勝手に動くんだよね。 あ。でもリードはお願いします」 最後の一言で弱ったみたいに“へにょ”って笑う辺り、泰弘っぽくてホッとする。 とか思ってる間に、すっかり全部剥かれてしまった。 「あ。じゃぁ先に、ローション買っといて」 運ばれたベッドで身を起こして、すぐ脇を指差しながら、買い方の説明をしつつ、購入して貰う。 「後で割り勘するから」 それを受け取って、両手で握り締める。 「良いよ。授業料として受け取って」 “授業料”って言葉に過剰反応してしまったのは、泰弘にだいぶ心を持ってかれてるから。 「コレ、授業なの? 僕の立場って何?」 だからつい、意地悪を言ってしまった。 「や。あの。そういう意味じゃなくて」 焦った顔の泰弘も、困った顔の泰弘も、 全部僕の物にしたくって。 「ゴメン… 言葉の選び方を、間違えました」 しょぼん、とした泰弘を見て思い出す。 いけね。初めてなのにこんな気持ちにさせちゃいけない。“楽しいセックス”を“楽しい思い出”を、作るハズだったのに。 「なんてウッソー」 慌てておどけて見せてから 「僕もゴメン。 お詫びに口でシてあげる」 すでに自分で脱いでパンイチになっていた泰弘のパンツを剥いてから、すでに芯を持ち始めていた剥き出しのソコを握る。 大きさ、形、色、申し分ない。 こんな所まで僕好み。 あとは早さだけど、もし早漏でも1回抜いておけばちょっとは保つでしょ。 と、舌を這わせる。 「ン、ッあ…」 泰弘のエロい声を聞きながら、先端を舌で嬲って、根元を指でさわさわと撫で上げて行く。 先走りが溢れて来るのとほぼ同時に、口腔内へと招き入れて、わざと音を立てて上下する。 「ゥ。ンん。あ、はぁ」 泰弘が喘ぎで“気持ちイイ”を伝えてくれるから、僕まで気持ち悦くなって来る。 早くコイツを挿れたくて、疼いて疼いて仕方ない。 思わず手元にあったローションのキャップを片手で開けて、太股で挟んで中身を出す。 それを掌で受け止めると、今度は足を開いて自分で最奥に手を伸ばした。 「ンッ」 敏感になっているソコは、自分の指でも十分に感じられて、すぐに2本飲み込んだソコを、そういえば数時間前にも使ったんだった、と思い出させる。 ヌチュ。ぐちゅ。 と、やたら響く水音は、自分の物なのか泰弘のものなのかすら、判断が付かない。 「はぁ、あぁ、ンあ」 脳ミソも溶けそうな快感の中、泰弘のを扱く速度が落ちて行く。 自分の喘ぎで、疎かになっている自覚が芽生え始めた頃、不意に自分より太い指が追加される。 「ンあはッ!」 反射的に仰け反ったせいで、泰弘のソコからも、挿入していた指も、スッポ抜けてしまった。 吸い付いて嬲ってグチュグチュにしていたソコから外れたので、大いに(よだれ)を撒き散らしてしまう。 「はぁ。ンく。なに?」 口腔内に残った液を飲み込みながら、沸いた疑問をぶつける。 「俺が、やったげる」 自分でシテたのに、気付いたんだ。 「え、っと。こうやって、解してんの?」 僕の双丘に手を伸ばし、秘所を見つけると一気に3本も指を埋め、ズクズクズク。と、激しくピストンされる。 加減を知らない雑な出し入れの連続に 「んヤ、あッ!ン!」 解す、を通り越して、感じすぎてイきそうになって、立ち膝のまま泰弘の両腕にしがみつく格好になる。 それでも容赦してくれなくて、イカせるつもりが、自分が先にイってしまった。 「ん。はぁ、は、ぁは。ッ」 息を荒げて、泰弘の胸の中、身を預ける格好になる。 康弘はそのまま、優しく抱き締めてくれていた。 「司、エローい」 そう言ってギュウ、と抱き締められる。 ご満悦だな。それがなんか悔しい。 と、ふと目に映る白濁。 「ぁ…。ごめん。泰弘のお腹に…、 掛かっちゃったね」 泰弘の肩越しに見えるティッシュに手を伸ばそうとしたら、身を屈めて邪魔される。 「良いって。後でお風呂入るでしょ?」 「うん。まぁ」 てか、泰弘まだイってないよね。 そして、早漏じゃない事に内心喜びつつ 「んじゃ、続き、しますか」 息も整った事だし。 と思って、横たわる。 本来ならコンドームを付けさせる所だけど。 泰弘とは、直に繋がりたかったから、敢えてその言葉は意識させないようにしていた。 「バックが良い?」 上半身を沈めたまま、膝立ちして腰を浮かす。 泰弘に聞くフリをしておきながら、実はバックは僕の好きな体位。 根元まで挿入るから、凄い、気持ちイイ。 「ひゃぁあ」 と、泰弘の奇声が届く。 「司…エロ、すぎ、でしょ」 そっと振り返ると、茹でダコみたいな泰弘と目が合った。 「イイでしょ、コレ」 どうやら煽りは成功だったらしい。 「やす。来て?」 クン、と、腰を上げて誘えば 「参ります!」 謎の掛け声が帰って来た。 グッ、と入口に先端を押し付けて。 ニュルん、とズレるのは、誰にでもある事。 ヌルヌルに濡らしたのは失敗だったかな。とか、細やかに後悔の念を抱きつつも、硬さ的にも問題は無いし、ちょっと手を添えてやれば、すんなり挿れる事は出来た。 「んン…悦ィ…」 ぐるり。腰を回して泰弘を味わう。 「司ン中。あ、っつぃ…」 泰弘の、吐息。 中で更に膨らむ圧迫感。 それだけでも十分満たされる、けど 「ぬ、クチュ。」 抜いて、挿れて、 「ぬぷン。くぷ」 扱いて、貫いて。 「あ、ン。はぁ、」 2人でないと、味わえない快楽。 今までは、それだけで良かったけど、 泰弘を知ってしまった。 身体だけじゃなく、心ごと、繋がれる人を、見つけてしまった。 暖かいセックスが、こんなに気持ちイイものだったなんて。 この、ぎこちないほどの優しさを知ってしまったらもう、他に目移りなんて出来ない。きっと。 そう、“あの場所”の卒業を決意した、刹那 「気持ちいィ…」 背中に、覆いかぶさる泰弘。 「ゃす…」 名を呼ぼうとして、振り向こうとした所を口唇が塞いだ。 「ぅン」 一瞬だけ口唇を合わせると、今度は脇から腕を通して、肩を羽交い締めにするように固定される。 「司、つかさ、」 背中から抱き締められて、これから与えられるであろう快楽を予感する。 「ふ、ぁ、」 その予感に、身震いして 「つ、か…」 ギュウ、と、掴まれた泰弘の腕にしがみつき、顔をベッドに突いて横向ける。 「パン!パン!パン!」 瞬間、 突かれる毎に身体が浮くほどの、激しいピストンが始まる。 肩をガッシリと掴まれているせいで身体は浮かないけれど、代わりに快楽の逃げ場も失われていた。 「は、あ、あッ、あ、んッ、や、」 喘ぎにならない喘ぎは、突かれる激しさに合わせて途切れ途切れになり、油断したら舌を噛んでしまいそうなほどだ。 「や、ン、だ、ッめ、こ、わッ、れ」 言葉も言葉にならず、泰弘の耳には届けてもくれない。 けど 「あ、ぁ、ン、悦、ッ、いン」 その激しさも、快楽の枠から外れる事も無く、 『壊れそうなほどの激しいセックス』は、実は心のどこかで求めていた物だったと気付く。 今までは『可愛い』容姿が災い?して、大切に、オンナノコにするみたいなセックスしかして来なかった。 僕は壊れてしまうほど柔な身体をしていない。 ちゃんと男なのに。 大切に扱って欲しい訳じゃないのに。 心で望んでいたセックスは、童貞だからこその、手加減出来ない余裕の無さから発せられて。 何より嬉しかったのは、一目惚れした泰弘から与えられた、という事実だった。 もう、運命じゃね? そう、結論付けたら 思考停止。 「ん、ン、あ、あ、ぁ、うン」 舌を噛まないように、と、少しでも呼吸が楽なように、開けっ放しになった口からだらしなく涎を零して、悦がり狂って、しまった。        *        *        *        * ホテルの出口。 当然一緒に退室した。時間はAM10:47 退出時間ギリギリまで一緒にイチャイチャしたりセックスしたりして過ごした。 ちょっとだけ、睡眠時間も取ることが出来たし。 連絡先は、とっくに交換済み。 「この後は?ランチ食べに行こうか?」 泰弘の提案に、乗っかりたい所だったけど 「ゴメン、これからちょっと写真撮影があって」 仕事が入っているので、一旦お断り。 「しゃ…?」 分かり易く首を傾げる泰弘に向かって、『へ』と笑うと 「僕、タレントの卵だったりすんだよね。 今日は、雑誌の撮影。 と言っても、今は舞台がメインだし、これから売り出す所だから、知ってる人も少ないだろうけど」 ようやく種明かし。 まだ誰にも言った事ない、僕だけの秘密。 だったもの。 「ぅええぇぇぇ!!??」 流石の泰弘も、これには驚きだったらしい。 「もし、これから有名になっても、僕を捨てないでね」 ホテルの敷地内の路上、泰弘の口唇を奪ってやった。 「それはこっちの台詞でしょ~」 トホホな顔の泰弘に、心の中で『ごめんね』って呟いて、 「仕事終わったら電話するから。 また後でねー」 名残惜しくならないように、わざと先に背を向けてから、手を振った。 その日撮影された写真は、今までで一番良い出来で(幸せが滲み出てたんだろうね)掲載された雑誌が売り切れてしまうほど好評だったらしく、僕は一気に有名人になってしまった。 さて、こうなると泰弘に逢える時間も減ってしまう可能性が出て来る。 それでは僕が耐え切れないので、てか生きて行けない、ので。 彼をマネージャーにしてしまうおうか、と、 目下目論(もくろ)み中である。 へへっ。←

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