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第4話

――宮田さんさぁ、見た目もまったく悪くないし、悪癖持ちってわけでもないし、えっちも上手いんだし、もっと楽しまないと損だと思うよー」 4ヶ月前、10月の初旬だったと思う。 その頃まで夏の暑さが尾を引くと散々言われていたわりには、秋の物寂しい気配が風に乗って訪れた夜、圭一郎は二丁目のラブホテルにいた。 こんな場所に来て、それ相応のことをしたのは大学生の頃以来ではないだろうかと思いながら、シャワールームで汗やら何やらを洗い落とし、支配人の趣味を疑いたくなるような毒々しいバラ色の照明がともる部屋に下着姿で戻れば、ぐちゃぐちゃに乱れたキングサイズのベッドの方から、能天気な声が聞こえてきた。 「あ、お世辞じゃないよ。《ミラージュ》で声かけたのが宮田さんで良かったって、本当に思ってる」 無防備な姿で白いシーツの上に寝転がっている彼は、見た目だけで言えば、ルネッサンス期の絵画によくある天使のように見えなくもなかった。ミルクティー色に染めたツーブロックの髪はゆるやかにうねっており、肌は高級陶器のように白く、見るからに触り心地が良さそうで、実際ひどく良かった。顔のパーツはどれもこれもが整っており、テレビに映るアイドルと引けをとらないだろう。 華やかな空気を嫌味なくまとい、かつふわふわとした羽のように軽やかさを感じさせる。必死に手を伸ばして掴みたくなるような、ここで掴まなければ、もう二度と触れるどころか、目にすることすらできないと思わせるような。そんな印象を抱かせる青年、それがリョウだった。 《ミラージュ》はこのホテルから少し離れたところにある、二丁目の有名なバーだ。 その店を利用できるのは、同性愛者のみだ。観光目的や興味本位で訪れた異性愛者は、必ず入店を断られる。一見、どこにでもある瀟洒なバーだが、その実態はセクシャルマイノリティーが一夜限り、あるいはそれ以上の関係に発展してもいいと思う相手を口説き落とすために使う、ある種の専門店となっているからだ。 窓側に並ぶソファー席は、相手を同伴して入店した客のために、10席あるカウンター席は、出会いを求めて訪れた客のために用意されていると言っていいだろう。それが暗黙の了解と化していた。 その晩、仕事を終え、スーツ姿のまま《ミラージュ》へと足を踏み入れた圭一郎は、カウンターの空いた席に座り、カクテルを何杯か飲んでいた。この店について、色んな人から聞かされてはいたものの、入るのはこれが初めてだった。慣れない環境に内心緊張しており、周囲の様子を窺う余裕がなかったが、想像していたよりも店の雰囲気は落ち着いていた。

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