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第6話

「……よく、分からないんだが」 エンストしていた思考に再びエンジンをかけ、圭一郎は思った。考えた。疑問を抱いた。 「なんで、俺だったんだ? 君だったら、えり好んでいい男を誘うことだってできただろ?」 「卑下する必要ないよ? 宮田さんだって十分にいい男だし」 「……そう言われてもな」 誰かと出会い、気楽な夜を過ごすために《ミラージュ》へ行ったものの、こんなに綺麗な青年に声をかけられるとは思ってもみなかった。もっと言えば、誰にも興味を持ってもらえないだろうと、半ば諦めながらあの店にいた。元より自信のない人間だが、失恋をきっかけにさらに自信を喪失していた圭一郎にとって、あれこれと済ませた後に言うのも何だが、リョウからのナンパをいまだに信じられずにいた。 「宮田さん、後腐れのない相手がほしいんでしょ?」 はっきりとしない圭一郎に、嫌気がさすわけでも呆れるわけでもなく、リョウは変わらず愉快げに笑っている。 「俺も同じ。だから宮田さんの、最初から何も期待していない、何もかもを諦めてるって感じがいいなぁって思ったんだ。それに……」 「……それに?」 リョウは身体を起こすと、三角座りをし柔和に微笑んだ。 「宮田さん、びょーきとか持ってなさそうだし」 付け足された理由に、思わず顔が引き攣った。 「持っていたら、こんなことしない」 「だよねー」 むっとする圭一郎に対し、リョウはカラカラと明るい声で笑う。……掴みどころのない奴だ。それに、妙に洞察力があるのはいったい何だ。圭一郎はため息をつき、半乾きの髪をがしがしと掻きながらも、このまま流されるように、彼の提案に乗ってしまってもいいのではないかと考えた。 リョウは水曜日の夜の予定が埋まる。自分は彼と気楽で気軽な関係になることで、失恋の痛みを忘れ去れるかも知れない。それに、彼とのセックスは気持ちがいい。互いに利点があった。 「……分かった、毎週水曜日だな」 圭一郎の返事を受け、リョウは「やったぁ」とベッドの上で飛び跳ねて喜んだ。そういったところは、年相応の青年だった。 「君が俺の前から去らない限り、俺は君を拒まない。来るもの拒まず、去るもの追わずだ。それでいいな?」 「うん、オーケー。もちろんもちろん。じゃあ、これからよろしくねー」 そう言って差し出された華奢な右手を、圭一郎は握った。握手のつもりだったが、次の瞬間には結構な力で引っ張られ、そのままリョウに向かって倒れこんでしまう。 彼はくすくすと笑いながら圭一郎の耳朶を甘噛みすると、「ねぇ、もう一回しようよ」と甘くいやらしく誘ってきた。 それを拒む理由は、圭一郎にはなかった。結局、それから2回ほどリョウと身体を繋げたのち、「朝までここで眠るよ」と言って眠りだした彼を置いてラブホテルを後にしたのだった。 それからは毎週、ホテルで彼と会い、キングサイズのベッドで戯れ続けていた。

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