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第7話
2月は逃げるような速さで、下旬を迎えた。
2月22日水曜日。この日も先にラブホテルの一室で待っていたリョウを抱いた後、ふたりでシャワーを浴びた。
部屋に戻れば、リョウは湿った髪と身体のままベッドに飛び込み、ゆるやかなスプリングに身を委ね、楽しげに笑った。そして、室内の自販機で買った缶チューハイを開け、爽快感に満ちた表情でゴクゴクと飲み始めた。
圭一郎も同じく購入した缶ビールを飲みながら、下着姿でベッドに腰をおろす。一気に飲んでしまい、頭の奥がキンと痛んだものの、美味いものは美味く、満足げな吐息が漏れる。それを聞いたリョウがくすくすと笑った。
「美味しいよねぇ、えっちの後のお酒って」
「そうかもな」
圭一郎がうなずけば、彼も「うんうん」と元気よく首を振った。先ほどまでこのベッドでひどく艶やかに大胆に蠢き、甘く鳴いていたのが嘘のような、幼さがほのかに残る無邪気な笑顔だった。
「宮田さん、笑ってると男前度が増すんだし、もっと笑ってればいいのに」
「男前度なんて言葉、初めて聞いたな」
圭一郎は苦笑した。
「雑誌とかによく書いてありそうじゃない?」
「少なくとも、俺が読んでいる雑誌では見たことがない」
「どんなの読んでるの?」
「経済雑誌と金融雑誌」
「うわぁ、またそんな硬いもの読んじゃって」
「仕事柄、必読しないといけないんだ」
リョウはやや渋い顔をしながらも、「俺には縁遠いものだなぁ」と笑った。
「……話それちゃった。宮田さん、なんであまり笑わないよね。何で?」
「何でと言われてもな……」
元よりそういう人間なのだ。感情があまり表に出ない。そう答えれば、首を傾げられる。
「けどさ、顔に出ないなりに、気持ちって伝わってくるでしょ? 宮田さんの場合、それすらないんだよねぇ」
「そうか? 人並みにあれこれと思ってるが」
「うーん、何て言ったらいいんだろう……宮田さん、生きてるのが楽しくなさそう」
何だそれ、と圭一郎は失笑した。けれどもまぁ、その通りかも知れない。人生を終わらせたいなどとは思わないが、生きているのがつまらないと感じる時はたまにある。
「ねぇねぇ、宮田さんって何してる時が一番楽しい? 幸せ?」
「……難しいことを訊いてくるな」
苦い声でそう言いながらも、圭一郎は黙考する。その様子を、リョウはチューハイを呷りながら見ていた。
「……オムライスを食っている時だな」
自らの生活を振り返ってみた末に、浮かんできたのがそれだった。答えれば、なぜか噴き出された。
「何で笑う?」
「え、いやだって、面白いでしょ!」とリョウはゲラゲラ笑いながら言う。「宮田さんって見た目に似合わず可愛らしい食べ物が好きなんだねぇ……」
「可愛らしい? オムライスがか?」
圭一郎は眉をひそめた。「美味いとは思うが、可愛いと感じたことは一度もないな」
「ちょっと、やめて。宮田さん、面白すぎるって」
ごろんごろんと転がって、ひぃひぃと笑うリョウの言わんとすることが、まぁ分からなくはない。けれどもそうだとすれば、自分の見てくれに相応しい食べ物とはいったい何だという話だ。圭一郎はいささか不機嫌になり、黙ってビールを飲んだ。
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