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第11話

――こういうのも、大変だがいいものだ。 圭一郎は思う。男しか好きになれない自分には決して描けない、実現もできない弟夫妻の在り方だが、ゲイであることを引け目に感じずに済んでいるお陰で、心の底から祝福できるし、甥っ子との対面が楽しみだった。 ……十分過ぎるほどに、恵まれている。 なのになぜ、胸のうちに索漠とした風が吹くのだろう。ふとした時に、なぜ心は悲しげに震えるのだろう。 ――ふいに、ふたりの男性の姿を両眼でとらえる。彼らは圭一郎がいる店の向かい側にある高級家具店へと入っていくところだった。 60代後半―自分の父よりも少し老いてみえる男性と、20歳前後の青年の組み合わせで、歳をとってからの子ども、あるいは孫くらいの年齢差があった。……青年に見覚えがある。あり過ぎるくらいだった。 圭一郎は目がいい。健康診断では毎年、両眼の視力だけは褒められる。カート・コバーンの顔写真がプリントされたTシャツの上から、黒のテーラードジャケットをさらりと羽織り、ゆるやかなシルエットのデニムを履いて、ご老体に寄り添っているのは、リョウだった。 幼児服店の店員が、ラッピングを終えた品物を愛想よく持ってきてくれた。圭一郎は礼を言ってそれを受け取り店を離れると、ウィンドウショッピングをするふりをしながら、彼らの姿が見えやすい場所まで歩いていく。自分はいったい何をしているのだろうと、馬鹿らしく思わなくもなかったが、何故か彼らのことが気になってしまい、身体が動いてしまった。好奇心だろうか、よく分からない。 適度な距離感は保っている。圭一郎はさりげない視線をそちらへと向けた。……ガラス張りの店だったので、彼らの様子が丸見えだった。スーツ姿で恭しく接客する男性店員にご老体がにこやかに喋っていて、そのとなりにいるリョウもまた人好きのする笑顔を浮かべていた。 親子、あるいは祖父と孫にしては、異様なまでにべったりとしていた。裕福な資産家と、その愛人といったところが妥当だろう。 隆仁や梨々子が言っていた通りだ。おそらくあの老人が、リョウに金銭的な援助をしているのだ。……しかし、彼らの姿を追い、それを察した瞬間、圭一郎は一気にどうでも良くなった。あぁ、そうかと胸のうちで興味なく呟くのみだった。あの店で何かを買うつもりなのだろうが、それもどうでも良かった。

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