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第18話
ゴールデンウィーク明けの初日出勤に、心踊る人間がいればぜひ会いたい。きっと、家庭内のカースト最下位にいる人間か、危ないクスリを服用してハイになっているだけの人間か。ふたつにひとつだろう。
連休中はひとりで香港へ行き、ぶらりと観光したり飲茶を食したり、現地人や同じく旅行で香港を訪れたという外国人と英語で交流し、満喫した圭一郎にとって、今日という日は最も憂鬱で無気力だった。充実したオフを過ごせば過ごすほど、反比例してそうなってしまう。おのずとため息ばかりが吹き出る。
しかし今日から、つきっきりで教育と指導にあたっていた新卒者が徐々にひとり立ちしていくので、職務の負担は軽減されるはずだ。
4月に入庁した新卒者二百名ほどのうち、圭一郎が所属する会計管理局にも、キャリア活用として採用された男性2名、女性1名の新人が配属された。そのうち、証券アナリスト、国際公認投資アナリストの両資格を有し、今年の3月に早稲田大学のビジネススクールを卒業したばかりの男子優等生のメンターに、圭一郎は抜擢されたのだ。
昨年、ひとつふたつ上の先輩らがメンターに指名され、ひいひい言っていたので、今年度あたりにお鉢が回ってくるのではと懸念していたが、案の定だった。同期ひとりと、昨年は運良くメンターを逃れられた1つ上の先輩と共に上司から会議室へと呼び出され、名誉ある役を承った時は、「あぁ、仕事が2倍、いやそれ以上になるな」と胸のうちで深いため息をついたのだった。
夢と希望と意欲に溢れたメンティーに「そんな風にいられるのも今のうちだぞ」と内心思いながら仕事を教えていると、自分の仕事が後回しになる分、残業時間が増え、大変だったが、新鮮で楽しくもあった。
指導していた新人の働きっぷりは大変良い。詰めが甘かったり、ホウレンソウが疎かになる傾向があるが、それに注意して仕事をするうちに改善されていくだろう、それほど心配はしていない。彼の失敗をフォローするのもまた、自分の仕事だ。元々、人の世話をするのが好きな性分なので、メンターの仕事は自分に合っているのかも知れない。
とは言えやはり、疲れるものは疲れるので、4月の休日はほとんど、家で何もせずぐったりとしていることが多かった。二丁目にも、まったく顔を出さなかった。
そうして、あっという間に1ヶ月が過ぎ、香港滞在中に日焼けた顔を曇らせ、圭一郎はオフィスに入ったのだった。
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