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第22話

圭一郎は目を見開き、息を呑んだ。右手に持ったスマートフォンが、するりとテーブルに落ちる。心臓が慌ただしく鼓動し始め、頭のなかで自分の声が響いた。 ――どうして、アイツが……? 目が合った青年は、厨房奥の水洗い場に立っていた。一度は焦ったように圭一郎から視線を逸らしたが、それからすぐにまた、ちらりとこちらに目顔を向け、控えめに微笑んだのち、食器洗いを再開した。圭一郎は咄嗟に、ランチセットのサラダとコンソメスープを出してくれた20代後半のコックを呼びとめ、小声で「あそこで食器洗いしてるのは?」と訊ねた。 「あぁ、あの子ですか? この4月に入ってきた見習いですよ」 コックは彼を見て、微笑ましげに答えてくれた。「澤田くんっていいます。一生懸命で物覚えもいいし、何よりイケメンだから、女性客やウチの女性陣からの人気は抜群なんですよ」 「……へぇ」 コックは颯爽と持ち場へと戻っていった。あまり見つめていてはいけない、不審がられると思い、圭一郎はスープとサラダに手をつけ始めたが、どうにも気になってしまい、水洗い場の方へと視線を向けてしまう。しかし、彼も意識しているのか、こちらを見ようとはせず、黙々と皿洗いを続けていた。 メインのオムライスが運ばれてくる。ケチャップの酸味のある匂いが立つそれは、ハリウッド女優の目を彷彿とさせる綺麗なかたちをしていた。色ツヤのある卵にくるりと巻かれ、柔らかな湯気をあげ、白い器の上にふんわりと乗っている。3月末ぶりの《太陽亭》のオムライスを前に、胸が躍った。スプーンですくえば、中から溶けたチーズが伸び出てきて、その様と匂いに腹が少し鳴いた。 ふうふうと息で冷ましてから口に運べば、変わらない味に安堵感を覚え、その美味しさに思わず口元が綻びそうになる。もぐもぐとゆっくりと咀嚼すると、チーズやミンチの旨味やケチャップの味、バターライスの豊かな香りが口腔に充満していき、たまらなく幸せだった。 あぁ、やはりこの店のオムライス以上に美味いものはない。 しみじみとそう思いながら咀嚼物を飲み込んだところで、ふいに視線を感じ、圭一郎は顔をあげる。……彼がふいとそっぽを向いたのが、視界の端に映った。緩んだ表情でオムライスを頬ばっていたのを見られてしまったに違いなく、途端に気恥ずかしくなる。俯きがちにもうひと口、ふた口と食べながら、どうしようかと思案する。 いや、1年以上も前に関係が切れた青年と、今さらどうこうする必要はないのだろう。 しかし、この店の常連客である自分と、どうしてかこの店で見習いコックとして働いている彼との邂逅は、決して偶然ではなかった。圭一郎には、そう言い切れる根拠があるからだ。 だからこそ彼とは一度、面と向かって話をしなければならないのではないか。こちらから話したいことはこれといってない。ただ、訊きたいことが色々とあった。

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