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第14話 口づけと夢

 横にいた皐月が寝返りを打って、こちらを向いた。  三年前の夜、この身体を抱いた記憶がよみがえりそうだ。おもわず、皐月の唇に顔をちかづけてしまう。  その夜は満月だった。冴えわたる月夜のした、ふらふらと帰って、部屋の前ですれ違う皐月を捕まえた。唐突に抱き締めた記憶だけが残っている。そのまま押し倒して、組み敷かれた皐月は驚いた顔をしていた。貪るように口腔を吸って、何度も唇をおしつけた。皐月に、触れたかった。触れて、壊してしまいたかった。皐月は抵抗もせず、腕をまわす。キスの音だけが闇に包まれた部屋にひびく。  舌先でつつき、吸うと、ぴくぴくとうごく。浅いキスがだんだんと、深い口づけにかわりなんども交わしてしまう。 『……っ、ふ……き……りゅ、……んぁ……』  腕の中で、その身体は段々と力が抜けていく。言うままに舌先を合わせて、胸の突起を撫でるとぴくんと小刻みに反応した。  唇を滑らかな肌にあてて、痕を残すように噛んで吸った。歯を立てるとともに、首に回した腕の力がきゅっとつよくなった。手を秘部にのばす。後孔はぱくぱくとひらき、皺をていねいに伸ばしてやる。 「……っぁ、……ぁ……」 「すきだ」  耳朶を甘く噛んで、指先を埋めていく。指先でつついてやると、すぐに絶頂に達する皐月が愛おしかった。 「ん、ぁ。だめっ、そこ、は、だめ……っ、あー……」 「ここ、すきだろ?」  我慢できずにひらいた縦線に雄棒をおしすすめた。  淫肉をなんども抉り、皐月を絶頂に誘う。汗ばんだ肌と体液が入り交わるような錯覚を感じるほどに、甘い快感が全てを支配していた。 家でしか顔を合わせないが、甘く淫靡な一面に完全に自分は堕ちていた。 皐月の甘く小さく、押し殺そうとする漏れ出た喘ぎ声に堕ちるのは容易かった。 ……自分でも単純すぎる。 だが、桐生はセックスが終わると皐月を残してそのまま仕事に向かった。甘い話もせず、酷い時はそのままにして、別のマンションに泊まっていた。 振り返っても後悔しかない過去だ。 この記憶だけでも忘れて欲しかった。 今は……。 皐月の顔を見ると、乱れた前髪から栗色のような瞳が隙間から見える。切ないような泣きそうな寝顔だ。桐生は頭を抱える。 反芻する最悪で、甘い記憶を横で眠る皐月を眺めながら舌打ちをしてしまう。桐生はたまたまバーで出会った皐月を、初めて顔を見た時から気になっていた。 飄々とした雰囲気をしてるが話すと、とても惹きつけられる。仕事と身内のゴタゴタでかなり疲労していた自分は皐月は無くてはならなかった。 あの時もっと上手くやれていれば……。 桐生は皐月の寝顔を見ながら後悔した。いても立っても入れず、そっと起きないように引き寄せて抱き締めた。皐月は寝息を立てて、胸元で寝ている。 卑怯なのは分かっていたが、止められなかった。そっと額に口づけをし、止まらず唇にも軽く押し当てた。 その唇は柔らかく、もっと深く口づけしたい。 ……まだこのまま起きないでくれ。 桐生は祈るように目を閉じ、もう一度軽く唇を合わせた。

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