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第22話 車内の淡い思い

冷房が効いた車内で汗ばむ肌と指先を意識しながら、窓から流れる景色を眺めた。タクシーは立ち並ぶビルから首都高にのり、羽田方面を沿うように走り、目的地に着々と近づいていた。 あと少しで目的地に着く。 引越しから見慣れてきた建物を確認した。 強く握られる大きな掌と太い指からは、桐生とは系統の違う菫の雄々しい肉体を感じ取れた。離してもらおうと指を動かすが、更に強くシートに指を縫い止められた。 恐らく菫は仕事や学会での疲れと先程の酔いにより、眠ってしまい誰かと間違えているのかもしれない。 菫のような男には既に傍にいて相応しい人がいそうだった。完璧な容姿、育ちの良さ、身の着こなし、穏やかな性格など、どこを取っても自分とは掛け離れており、全てを兼ね揃えてるように見えた。 ホテルでも菫が長い脚で歩くと痛い程の視線を感じ、周辺は色めき立つほどだ。 そんな菫を女性がほっとくわけもなく、恐らくお付き合いしている人と間違えられ、甘えているのだろう。 朝の桐生の間違いよりは、幾分かましで寝顔も子供のように可愛く思えた。 「……菫さん、着きますよ」 耳まで真っ赤になりながら、菫の耳元で囁いた。身体をぴったりと寄せ、凭れたままの状態で菫は少し目蓋を開いた。 「あ……ごめん、寝てたよ。恥ずかしいな……」 ぱっと繋いだ手が離され、菫は身体を起こした。触れた部分から熱が醒めていくようだった。

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