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第25話 桐生と蒼
桐生家は日本有数の残された財閥だ。
潤沢な資産と資金を持ち、金融、自動車工業、造船、小売り、電気など、経済における主要な部門を取り扱っている。また、国家権力と密接な結びつきがあり、戦前・戦中の政治経済に大きな影響を与えてもおり歴史は深く長い。
しかしながら長年にわたって、桐生はある問題を抱えていた。
桐生家の長男、桐生 義孝 による弟桐生 楓 への過度な過干渉だった。
早くに母親を亡くし、仕事に忙しい父親の代わりによく遊んでもらった記憶はあった。
幼少時は父親は仕事で滅多に会う事もなく、広い敷地と屋敷の中、義孝と使用人だけが全てだった。
他に遊ぶ相手もおらず、5つ上の義孝は優しく、優秀で身近で憧れの存在に映った。
だが長き日本の歴史に鎮座する桐生家次期当主の長男はプレッシャーと周囲からの羨望、高まる期待のせいで、段々と若き美しい青年の心を歪められ、弟である桐生に固執し始めた。
母親以上に桐生の進学、友人、恋人に介入してくるようになる兄義孝に、始めは思春期とともに抵抗した。
義孝も落ち着きを見せたが、それは見せかけで桐生の知らない所で着々と義孝の策略は実行されていった。
時を経るにつれ桐生への執着は止むことはなく、深刻さを増すばかりだった。
義孝は桐生の同級生、友人、恋人、交際関係を調べ上げ、自己の基準で判別し桐生から必要ないと判断すると、本人に気づかないように遠ざけた。
限られた優秀な友人、完璧な味気ない恋人、レールのように決められた将来。全てを兄である義孝が用意したような気分だった。
そのせいで桐生は何もかもに興味を失い、人に対する執着や固執せず、ある一定の距離を保ちながら接していた。
すでに抵抗しようとも、逃げようともできない状態に諦めていた。
今の警官という職業も上司に仕事は左右はされるが、義孝の力が強く及ばない事が大きな理由だった。
そんな最低な気分の中、皐月と出会った。
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