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第26話 想い人との出会い

皐月との出会いは最悪な気分だった。 義孝の手で別れさせられたであろう恋人との別れ話をした後、気分は最悪で一人カウンターで飲んでいた。その時、さりげなく視線を送っていた皐月に気づき憂さ晴らしに声をかけた。 皐月は弘前と飲んでいたらしく、弘前はすでに帰っていた。皐月の身長は170センチ前後で痩せていた。落ち着いた雰囲気を纏っていたが、声をかけると驚いて真っ赤になっていた。 髪の毛は黒く艶が出ており、澄み切った瞳が印象的で、その破顔した表情は今まで去って行った友人や恋人にはなく、すぐに桐生は興味を抱いた。 そして耳まで真っ赤になる皐月が面白く、話していくうちに先程の別れ話の苛立ちが癒されていくようだった。 皐月の職業は小説家で何冊か出版しているらしく、先程の別れ話の他に小説の話などをしながら酒を飲んだ。お互いに専門分野が異なるので、話題に尽きることはなかった。そのまま二人とも酔った勢いのまま、関係を繋げてしまった。 勿論、一夜限りの関係のはずだった。 義孝の監視がどこにあるのかわからず、同じように皐月とか関係を裂けられるのは分かっていた。 分かっていたが沸き上がる感情を止められず、連絡を取り合い、久しぶりに出来た新鮮な相手と何度も抱き合い躰を繋げた。 面白味のなかった元恋人達とは違い、皐月は魅力的で、夜になると次第に甘く馴染んでいく身体に桐生は夢中だった。 だが義孝の監視は止む事もなく、桐生はなるべく皐月との外出や外食は避けた。 身体を重ねるうちに、どうしたら皐月を義孝の監視から隠せるか考えていた。反対に何度も唇を合わせる度に、初めて桐生は心の底から貪欲に欲しいという感情を感じた。 だが皐月に溺れていく自分が怖く、ただ家の中で身体を求めたばかりでいつまで経っても最善の解法は見つからず、皐月とは身体だけの関係に限定されていくばかりだった。 外出する事もなく、仕事も忙しくなると、ろくに会話も交わさないようになった。 皐月は何も言わず、何も聞いてこない。 好きだとも、愛してるなども言えず、蕩けるように甘い首筋に噛みつき、舌先で何度も吸った。微かに震え、拡がる快感に怯えながら小さく漏れ出る喘ぐ声が好きだった。 皐月はいつも声を押し殺しては、その抑えた掌を掴まれ縫い止められ求められまま躰を委ねてくれた。渇いた躰が潤いを貪るように強く何度も求めた。 そして皐月は桐生の前から消えた。 

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