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第40話 菫の訪問

菫はその30分後にやってきた。 呼び鈴が押されて出迎えるなり、満面の笑みで抱き締めてきて物凄く心配をした顔で、すぐに寝かされそうになった。手には果物とパッセルのプリンの箱を持っており、汗だくで買いに行った桐生に少し罪悪感を感じた。 「……ここのプリン美味しいよね。体調は大丈夫?無理していない?」 冷えた麦茶をコップに注いで菫に出すと、一緒に居間で向かい合ってプリンを食べた。 「もう熱は下がって大丈夫です。まさか見舞いに来るなんて、思ってもいなかったので……移ると悪いから今日は早めに帰ってくださいね」 困ったような顔で笑い、久しぶりに菫の顔をみた。 菫はシンプルな紺色の肌触りが良さそうなポロシャツを着ていた。桐生より背が高く逞しく引き締まった胸板が布地から分かり、男なのに大人の色気を醸し出していた。桐生とは違う存在感に普段の家の中も違う場所に思えた。話してもないのにお気に入りのプリンを用意してくれる所も相変わらず完璧過ぎて、頭が下がる。 「うん、そうするよ。そう言えば後輩から宿泊券を貰ったんだけど、風邪が治ったらいかない?」 「……うん、治ったら考えるよ」 困った顔で力なく笑い、やり過ごした。 「じゃあまた連絡するよ。…………僕も急に来てごめんね。うん、他にもよる所があるし、今日はもう退散するよ。元気そうで安心した」 プリンを食べ終えた菫は優しく微笑むと早々に帰る支度をし、立ち上がって出て行こうとした。おもわず名残惜しくて、菫の手を掴んでしまった。 「……あっ……!」 早く帰って欲しいと思いながら、本当はもっと一緒に居たいと思った。 「皐月、ゆっくり休んでね」 蒼は掴んだ手を持ち上げて、手の甲に軽く唇を合わせキスをした。 「……ッ……!」 優しく微笑み王子様のような振る舞いに心臓の鼓動がどくどくと鳴り響くのを感じた。 「じゃあ、身体大事にしてね。僕はもう行くから、ゆっくり休んでね」 真っ赤になって立っている自分をよそに、菫は早々とシンデレラのように出て行った。

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