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第42話 蒼とのメール

桐生がその日戻ってきた時は、すでに夜中になっていた。 桐生が自分の我儘な依頼から戻らないので、心配になり何度か電話したが繋がらなかった。 「ごめん、何かあった? 心配したんだ……」 「……いや、大丈夫。これ、頼まれた奴」 白箱に青文字でデザインされたパッセルの箱を渡すと、桐生は顔も合わせず無言でシャワーを浴びに浴室へ直行した。 顔色は風邪を引いた自分よりも良くなく、自分のせいで疲れさせてしまった罪悪感で心配した。居間で終わった仕事を入念にチェックしてると、菫からメールを受信した。 『今日は元気な顔を見れて安心したよ。 それと温泉だけど、来週の土曜日は予定空いてるかな?仕事も落ち着いたようなら一緒にゆっくり身体休めたいな』 今日の菫の様子を思い出して、嬉しくなりつい何も考えずにそのまま返信した。 『今日はありがとうございます。仕事もひと段落したので、来週楽しみにしてます。ゆっくり温泉に癒されましょう』 送ってしまってから、もう少し考えればよかったと後悔した。 桐生が濡れた髪を拭きながら寝室に向かってるのが、開いた襖から見えたので立ち上がり駆け寄った。桐生はシャンプーと石鹸の香りが入り混じり、とてもいい香りがした。 「もしかして、風邪移った?」 やはり顔色はよくなく、心配になり触れようとしたが桐生は手で払い除け、立ち止まってじっとこちらを見るだけだった。 「大丈夫だ。悪いが、今日はもう寝る。……あと荷物整理したら来週土曜の朝、ここを出ていく」 暗い表情で桐生は呟いて、背を向け寝室へ向かって行こうとした。出て行くのは聞いていたが、その言葉で少し寂しく思えた。 「……あ、じゃあ金曜日はどこか美味しいもの食べよう」 その生気の無さが悲壮感を帯び、今日の無理な我儘をかなり申し訳なく思った。 詰め寄るように桐生に近づいて努めて明るく話した。 「……必要ない、普段どおりでいい」 桐生は俯いたまま言って、ぽたぽたと髪から乾き残した水滴が肩を濡らすように落ちていた。 「……頼むよ。俺の気がすまないんだよ。入院でもお世話になったんだから、良いとこのホテルのディナーでも予約してしっかり食べようよ」 かなり無理に詰め寄ると、桐生は困ったように尻込みしながら視線を逸らして、舌打ちをした。 「……ッ……わかったよ、それで最後だ」 その言葉でほっと胸を撫で下ろし居間へ戻ると、桐生は重い足取りで寝室に向かいそのまま静かに寝むってしまったようだ。

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