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第46話 桐生からの誘惑

出会わなければ良かったと桐生は思った。 皐月と出会わなければ、足の麻痺も皐月に負わせなかった。こんなに傷つける事もなかった。 「……ほら、逃げろよ」 そう言って、後頭部に手を回し、深く口づけた。舌が奥歯まで達し、垂れ落ちる唾液を貪るように吸った。  「き……りゅ……ッ……ぁッ……」 皐月から漏れでる抑えた名前と喘ぎ声に、欲情した雄が硬く滾るのがわかった。 桐生は迷っていた。 蒼が食事していた相手が恋人なのか分からないが、それをみて落ち込んでいる皐月につけ入れようとしている自分に悩んだ。 急に呼び出され、牽制してきたあの蒼の顔が憎かった。 蒼の表情がよく見える席に案内され、蒼は朝倉と楽しそうにワインを飲んでいた。皐月は悲痛な顔をしながら、桐生とたわいもない話をしてやり過ごしていた。 余程ショックだったのか、美味しい料理も上の空で、何を食べたのか分からないほど動揺していた。 桐生は心配した。 蒼が何を考えてるのか全く予想できず、振り回される皐月が可哀想だ。 桐生を牽制したかと思うと、自分の後輩から譲り受けた券で旅行に誘い、かというとたまにこちらに送られくる視線は熱ぽく、嫉妬を帯びているように感じた。 蒼は朝倉と付き合っているのか? 朝倉が行けなくなったから、蒼は単に皐月を誘っただけなのだろうか。 皐月を捨てて、どうしてまた皐月に近づくのか。桐生には蒼の行動は奇妙で理解不能に見えた。 皐月はきっとあの後、蒼は朝倉とホテルで過ごしてるのだと勘違いしている。 「やめ……ッァ……」 明日あの男に抱かれるくらいなら、自分が先に汚したい。 せっかく触れられたのに、また裏切ってしまうのは分かっていた。 「もう二度とお前を抱かないから…」 「……ん……ッ……!」 皐月の息を止めるように口を塞いで、反応する皐月の硬くなった場所を撫でた。  嫌がる事なく受け入れてくれる皐月の反応が嬉しかった。何度も唇を重ね、胸の突起を吸っては舌先で転がした。 愛撫するごとに、今まで過ごした時間がどんどんと壊していくのが分かった。 一緒に食事した事も、出かけて飲みに行った事も、おぶって帰った事も全て壊しているのが分かった。 涙を溢れさせながら、皐月は自分を蒼だと思って抱かれてるのだろうか。 皐月は甘く優しく応えてくれ、それが胸を掻きむしり貪欲に桐生は愛撫を繰り返した。 「……最後だ」 「……アッ……ッ……」 そう言って、桐生は何度も抱き潰すほどに皐月を抱いた。屹立した雄を押し当てゆっくりと根元まで押し挿れて、皐月はしがみついてきた。 抽挿を何度も繰り返して皐月を絶頂に導かせて、躰に沢山の痕をつけた。 終わった後、皐月は意識を失って躰を優しく拭くと、寝息を立てて寝ている皐月の額に口づけをした。 結局、皐月には何もしてやらなかった、 出来なかった。 ただ傍にいたかったのに、結局皐月を抱いて傷つけたと桐生は思った。 「……皐月、幸せになれよ」

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