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第49話 痕と傷

蒼は熱い湯で汗を流して浴場を出ると、力なく軋む廊下を歩き、大浴場から皐月がいる部屋へ戻った。昨夜は朝倉と記憶喪失や心療内科について色々聞き齧りながら、ちらちらと皐月の横顔を見つつ酒を嗜んだ。 まさか桐生と皐月が自分のホテルのディナーを食べに来るとは思わず、安易に朝倉と二人で食事をした事を後悔した。皐月は元気がなく桐生の後ろに寄り添い、桐生もまた鋭い眼光を光らせ騎士のように皐月を守っているようで目障りだった。二人がもう既に本当は結ばれてるんじゃないかと疑心暗鬼になりながら、意識が逸れ朝倉の話を上の空で聞き流して味気ない料理を食べていた。 そして変に誤解されるのも嫌なので、朝倉との食事も早々に切り上げ、酔って渋る朝倉を帰した。自分はそのまま上の階のスイートに泊まり、バーボンを煽って嫉妬にまみれながら寝た。 皐月が自分の選んだスーツを着て、他の男と食事をする姿を見たくなかった。 目が覚ますと、朝の準備を整えて駅までタクシーで向かった。 久しぶりの旅行と皐月に逢える喜びで胸が一杯で、昨夜の不安を消したくて早く逢いたかった。昨日寝不足と言ってたけど、仕事で徹夜でもしたのだろうか……。 蒼は顔色が悪い皐月を心配し、自分だけがこんなに浮かれている事を恥じた。 部屋も料理もグレードアップしたかいあって、皐月は喜んでくれたが気怠そうに座り込み目を細めて休んでいた。 寝不足なのか目元には薄らとクマもあり、何故かまだ暑いのに何故かパーカーも羽織っていた。 「……皐月?」 部屋に戻ると皐月は窓際に設置されたソファに腰をかけて、うたた寝をしていた。 やっぱり、仕事で疲れてた時に無理に誘ったのが良くなったかな……。 すっかり日が落ちて暗くなっていたので、窓側の照明にスイッチを入れて冷やさないように膝に毛布をかけようと近寄った。 上から覗くように皐月を眺めると、長い睫毛を上下させながら皐月は寝息を立てていた。 浴衣が似合って、その姿は蒼にとって本当に可愛らしく映り、皐月を無性に抱き締めたくもなった。 皐月の頬は内風呂に入ったのか、うっすらと朱く色づき、艶かしくシャツから胸の突起が見えた。 「……あッ……。」   蒼は驚いて目を見張った。 思わず見間違いではないかと思い、そっと皐月を起こさないようにして人差し指で緩んだシャツを僅かに押し下げた。 皐月の胸からは、小さな突起とその周りに夥しく浮かび上がる鬱血痕、そして歯形が見えた。 それは激しい情事の痕を示し、さらに浴衣で隠れていた手首にも抑えつけられた痕が残っていた。

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