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第51話 蒼の思惑

 冷静になろうとして、酔った皐月を部屋に置いて、大浴場に向かった。熱い湯に身体をあずけ、頭をひやす。  うそだと信じたい。  せっかくの料理も刺身や天ぷらも何も昨夜より味気なく、本当は皐月の顔すら見るのも辛かった。あれだけ牽制した桐生に。いや、まさかたった一晩で皐月を奪われた。  蒼は熱い湯からでて、身体を洗う。汚れしまったものを洗い流せるならそうしたい。  でも、皐月にとって桐生は汚れた過去でもない。皐月は桐生を愛していた。そばにいて嫌になるほどしっている。結局、初めからつけいる隙も、いや、そんな隙間もなかった。皐月がずっと桐生を好きだったことなんて、すべてわかっていた。しっていた。それでも、受け止めようと、皐月を手に入れようと、必死だった。  皐月は、まだ愛していたんだ。  だからか。  皐月は自分との記憶を、かんたんに手放した。きっと、皐月は、ぼくをあいしていなかった。自分がどんなに努力しても、結局は手に入らないものがある。今日の皐月の姿はもうない。結局、皐月は桐生のもとにもどるのか。  なんて、残酷なのだろう。なんて、残酷なひとなんだろう。皐月。

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