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第52話 勘違いの相手
夢の中で腰を抱き寄せられて、夢中で唇を合わせた。肉感的な唇を喰むように浅く噛んで吸うと、相手も答えるように後頭部を撫でながら深く口腔内にゆっくりと舌を挿れてきた。
ぐちゅぐちゅと涎を交換するように吸ったり、吸われたりを繰り返した。
口元からは唾液が吸えず垂れ落ち、ただ舌を絡め段々と互いの腰を擦り合わせた。
「……ンッ……」
昨日までの貪られるようなセックスとは違い、優しく埋めるように時間をかけて求められている気分だった。
桐生……。
結局、自分も寂しさと虚しさから桐生を利用してしまった。恋人がいるのに、その場の感情を埋めて欲しくて躰を繋げてしまったのだ。
最低だ。
相手がいると知っていた。
恐らくこの夢も昨夜の記憶から来てる。
そう思うと叶えられない相手を想いながら、桐生と昨夜の続きをしている気分だった。
まるで罰を受けるように、優しく愛撫されるとさらに昨夜を思い出させた。
顕になった太腿は優しく指を伝うように撫でられ、その指は腰に辿り着くと強く引き寄せられた。
「………桐生……んっ……」
溢れてくる唾液を飲み込みながらキスをして、相手の太い頸に手を回し爪を立ててしがみつき、囁いた。
夢ならなんでもして良いと思って、思い切って胸の突起も擦り付けるように押し付け、昨夜の乱れた醜態をみせつけるように躰が反応していく。
「……妬けるね」
「……ァッ……」
微睡んだ躰は熱くなり、その相手は勃った胸の突起を撫でた。甘い悦楽が電流のように走り、さらに快感を求めたくなり恥ずかしくなった。怖くなり腰を引くと、押さえつけて硬くなった屹立を押し当て布越しに硬い雄を感じた。
「……んっ……き……りゅ……」
これ以上はやめてくれ、と言おうとしていた。
首筋に顔を埋めて、優しく与えられる悦楽に酔いしれ、何を言おうかまた忘れて唇に鎖骨が当たり、それを優しく噛んで舐めると相手は頬に口づけた。
「……皐月」
その甘く低い重低音に聞き覚えがあった。
はっと意識がそれ、顔を上げ眼を見開くと、夢でない現実に躰の熱が醒めたように冷えた。
違う。
これは菫だ。
間違えた。
俺はなんて馬鹿な事をしたんだろう。
熱ぽい躰が段々と冷えていくのがわかった。
「……気になる人は、桐生くんなんだね」
蒼は乱れた自分を腰に回した手で引き寄せて、寂しく微笑むと激しく唇を合わせた。
唾液を貪るように吸われ、舌は歯列をなぞる様に這う。
「……あッ……」
唇が離れると菫は酷く冷たい顔で、身体をさらに引き寄せて睨めつけた。
「桐生くんが僕の弟と付き合ってるの、皐月は知ってるよね?」
初めて温厚で穏やかな蒼が、怒りに満ちた表情に変わるところをみた。
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