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第61話 目覚めの珈琲

カーテンの隙間から暗い室内に、朝光が薄く射し込むと、自然と瞼が開き重く軋む躰を起こした。 「……んっ……」 関節の節々が痛み、後孔からは掻き出されずに奥に残って放出された残滓が垂れ漏れていた。 昨夜も何度も意識がなくなるまで抱き潰され、いつの間にか蒼の逞しく太い腕の中で寝ていた。 横で眠むる蒼を起こさないようにそっと、腕の中から逃げてそっと蒼の頬に唇を寄せる。 寝顔はいつまでたっても変わらず微笑ましい。 長い前髪は乱れて、浅黒い肌は艶があり、陽光が照らすと寝ているだけなのにセクシーで格好良かった。 蒼が横で寝息を立てて寝ているのを確認すると、軽くシャワーを浴び昨日の情事の痕を洗い流した。 そして音を立てずに、昔住んでたであろう蒼のマンションをそっと出た。 今の恋人と過ごしてるだろうあのマンションに長くいるのは、前に住んでいた分自分には辛過ぎた。 滅多に起きないのを知っていたので、朝早くに名残惜しく離れるのが当たり前になっていた。 蒼のマンションのロビーにはコンシェルジュも待機しており、軽く会釈してマンションを出た。 空高く聳えて立つ蒼のマンションを見上げると、外の空気は冷たく本当に別世界に思える。 当たり前のように蒼はいつも傍にいたので、こうして離れていると蒼との格差をよりリアルに感じられた。 朝が弱く、付き合ってた頃は起こすまでよく後ろからしがみついて甘えてきて親しみと愛しさが沸き上がり、よくキスをしながら起こしたのを思い出した。 蒼のタワマンを出て、洒落たコーヒーショップがあるのでそこまで歩いた。 怠い身体でその店に入り珈琲を注文した。 そして窓際の座り心地が良いソファに座って、道ゆく出勤途中の人々を珈琲を手に観察して擦り切れた傷を癒すまでが、これまでの日課だった。 気怠い気分でほろ苦いアメリカンコーヒーを飲んで、朝の冷えた空気の中、流れていく通勤者を眺めると夢の中にいる気分で心地良かった。 皮張りのソファに深く沈むと、重い鈍痛と眠気に襲われそうだった。 昨夜も何度も激しく責められながら抱かれ、蒼は絶頂しても躰の中の奥深くを突いてきた。 近頃はあまり寝れず、朝倉にも指摘されたが顔色が悪いのは自覚していた。 だが逃げる事も出来ずに、繰り返される日常を送るしかなく虚しさで一杯だった。 ふと目の前に小さなコーヒーが置かれるのが見えた。 「……久しぶりだな」 桐生だった。

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