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第62話 桐生との再会
久しぶり過ぎて、一瞬誰なのかわからなかった。
桐生は出勤前なのか髪が綺麗に整えられ、戦闘服さながら身が引き締まるようにかっちりとスーツを着こなしている。
白いワイシャツからは鍛えられた強靭な肉体がわかり、警察官らしく似合っていた。
「…… 桐生」
懐かしく微笑むと、桐生も笑った。
あれから連絡するもなく向こうから連絡もこず、行方知れずのこの元同居人は元気そうだった。
「顔色、悪いな。ちゃんと食べてるのか?」
「ああ、大丈夫だよ」
力なく笑ってまた深々と革張りのソファに沈んだ。
この店は外資系の外国人が良く住む地域なのか朝から賑やかで明るい。
そして憂鬱な気持ちと怠さとは裏腹に、店内は広く緑が多く明るく洒落ていた。
時間はまだ7時だ。
朧げだが、桐生もこの近くに住んでいたのを思い出した。
「蒼さんと付き合ってるのか?」
「……え?」
桐生は目の前に腰を下ろすと、ちらりとこちらを覗いて珈琲を飲むとまた俯いて視線を外した。
「いや、ごめん。本当はたまにここでおまえを見かけていたんだ。……いつも疲れてそうだから心配してた」
なんだ、それ。
「見てなら声ぐらいかければいいさ。まだアプリ位置情報は健全なんだな。……蒼さんとはそれなりにやれてるよ。桐生こそ、葉月さんと上手くやってるのかよ」
言葉とは裏腹に昨夜の冷たく淡白な蒼を思い出して、久しぶりに再会した桐生を邪念に突き放すように珈琲を飲んだ。
それの態度は蒼には見せたくない、素の自分のように感じた。
「まあな、普通だよ」
桐生は憮然とした態度で言うと、また珈琲を口に含んだ。
その言葉は今まで気になっていた分疲れた身体を安堵させたが、すでに増した倦怠感でどうでも良くなっていた。
蒼は何も言ってないので、不安だったが約束は守ってるようだ。
「……いつもここにいる?」
おまえに関係ないだろうと言いかけて、昨夜の情事が思い浮かんで惨めな気持ちなりやめた。
「たまにね。ここの珈琲美味しいから……俺、もう帰るよ。桐生はまだゆっくりしてなよ」
ここは蒼のマンションからも近く、これ以上桐生といて誤解されるのを嫌だった。
桐生とまた会ってるのを知られ、これ以上軽蔑されたくない。
「待てよ」
コーヒーを飲み切り、カップを片手に持ちカウンターへ立ち去ろうとすると、桐生の手が伸びて手首を掴んでいた。
「……なに?」
「また、来るから…たまには会いたい。」
桐生の絞るその声に、一瞬迷った。
蒼は朝が遅く中々起きない。ここまで歩いて珈琲を飲む事もない。
つまり、会っても分からない。
「……いつもいるわけじゃない」
そう呟いて遠回しに断ったつもりが、安心したような顔で桐生は少し笑った。
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