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第63話 後悔の朝
蒼は締め切ったカーテンが見え、冷たくなったシーツの中で目が醒めた。
腕に抱いたはずの皐月の姿は煙のように消え、気配はなく、周りを見渡すがどこにもいなかった。
最近はいつもこうだ。
朝も傍にいさせたくて、昨夜も意識を手放すまで抱いたはずなのに皐月は決まって目醒めるといなかった。
蒼は溜息をつき、シャワーを浴びながら昨日の事を思い出した。
昨日は晴れた昼下がりだった。
黒木はご機嫌でまた横からちょっかいを出そうと顔を覗かせてきた。
「先生、良かったら倉本さんを紹介してくれますか?」
術前の準備と必要な論文を確認してる時に、唐突に言われ蒼はコーヒーを噴き出すところだった。
黒木を見るとにこにことご機嫌の様子で、悪気はなさそうだ。
「……どうして?」
極めて冷静に答えたつもりが、上手く答えられず素っ気なく返答した。
「いや、倉本さん話しやすくて、最近よく通院中合うんですよ。反応が面白いし、今度ゆっくり食事でもしたいなぁと思いまして。先生知り合いのようだし、繋いで頂けると嬉しいんですけど。…駄目ですかね?」
この際、恋人がいると言っても、この男は同性なので大丈夫だと食い下がってくるのが予想できた。
黒木とはそういう男だ。
明るく人に好かれ人懐こいが、向上心は高く本来は貪欲で狙った獲物は逃さない人間に見えた。
「彼、仕事で忙しいみたいだよ。……聞いてみるけど、興味でも持ったの?」
「なんかタジタジで話してる倉本さんが面白くて、ちょっとだけ興味湧いてます」
「そう、まぁ期待しないでね」
なんでもないように聞き流してすぐに切り上げさせたが、昨夜も会った皐月が心配になり黒木のせいで、急いで電話して食事の約束を取り付けた。
冗談じゃなかった。
昨夜も皐月をめちゃくちゃに抱き潰して皐月は最後意識が無くなるまで何度も抱いた。だが朝になると、いつも皐月は居なくなっていた。
そんなに自分の傍にいたくないのだろうか。
何度も躰を繋げて、肌を重ねても皐月はどんどん前のように自分との間に距離を作っていく。
蒼は裸の躰を起こして、長い前髪を掻き上げた。浅黒い逞しい背中に昨日皐月がつけた爪痕が生々しく小さく残っており、薄い傷痕をなぞった。
これ以上恋敵は増やしたくない。
桐生だけで充分だ。
あとはどうやってこの最悪な関係を、記憶が戻る前に良好な関係へ築き上げるか。
余計な登場人物を蒼はこれ以上増やしたくなかった。
自分が一番不利だと分かっていただけに、黒木にも嫉妬した自分を愚かだと一番理解していた。
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