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第64話 蒼の後悔
どうして、前みたいに優しく出来ないんだ。
蒼は自分の自制と自己コントロールのなさに辟易としていた。
いくら素晴らしい手術を冷静に重ねても、今の自分の自制なさは酷かった。
皐月と付き合っていた頃のように優しく抱くはずが、酷く責めると更に乱れて淫乱になる皐月を目の前にするとコントロールも効かず、何度も執拗に愛撫を繰り返してしまうのだ。
白く露わになった肌を震わせ、目尻に涙を浮かべて声を殺して喘ぐ皐月をさらに見たくなり、愛撫が止まらなかった。
初めは桐生がつけた痕のせいで、一端は抑えた。
だが皐月が寝ぼけて桐生と間違えて自分に迫られると、皐月を許せずにその怒りが焦がれるように燃えた。
柔らかな唇を喰んで肌を擦り寄わせ、淫乱に乱れた皐月を初めて見て許せなかった。
桐生への嫉妬と怒りのまま、皐月を何度も手酷く抱いてしまった。
皐月は何度も躰を震わせて抵抗したが、それは甘く悦楽に酔いしれてると思われ、力に任せて奥深く突いて犯した。
桐生と葉月が元々付き合っていない事など、全て知っていたのに、桐生に嫉妬し奪われたくない為に躰だけでも繋げたくて、嘘の口実をでっち上げて脅し、無理矢理抱いた。
皐月は責められ謝っていたが、さらにその泣き顔に欲情してしまう自分がいた。
目覚めると宿には皐月はおらず、蒼は自分が皐月にした事を後悔した。
急いで身支度を整え、皐月が残した金と荷物を持って宿をでて追いかけた。
皐月に謝罪して赦してもらおうとし、家を訪れると皐月は乱れたシーツの上に包まれるように寝ていた。
それは桐生との情事の後を見せつけられたように感じて、また嫉妬に狂った。
初めに抱いた時よりも酷い言葉で皐月を責めながら、泣きながら快感に乱れた皐月を抱いてしまったのは覚えている。
それから、機会を伺いながら誘い何度も気まぐれを装って抱いても、皐月は従順に従い、その露わになった白く頼りない躰を差し出して何も言わなくなった。
それはまるで桐生という男を守ろうという意思表示に見え、さらに燃え上がる嫉妬を煽ってしまっていた。
そして、執拗に愛撫し、何度も卑猥な体勢をさせて抱いてしまいのを繰り返していた。
最低なのは分かっていた。
皐月の心が醒めて傷つき離れていくのは抱く度に分かっている。
この関係を終わらせて、以前のような友人のふりをしていた方がまだマシだった。
桐生の影に怯えながら三年付き合っていた頃の方が、自信を持って皐月を優しく愛せた。
嫉妬に狂う自分に嫌気がさすと、皐月の記憶が戻らないで欲しいと自分勝手ながらにそう願った。
散々皐月の記憶が戻って欲しいと願ったが、今は違う。皐月が記憶を取り戻しても、現在の自分がした事に傷つくだけだ。
閉め切ったカーテンの隙間から陽光がさし、蒼はその怠さが残る艶のある肉体を起こして眩しさに目を細めた。
記憶が取り戻す前に、早く、この爛れた関係を修復しなければいけない。朝が来ても皐月と一緒に過ごして、また以前のように笑っていたかった。
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