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第65話 儚い夢
夢だ。
うん、恐らくこれは夢だ。
ふわふわと心地良くて、なにも纏ってない躰を横にして寝てると、蒼は後ろから長い脚を絡めて抱き締めている。
『……皐月、好きだよ』
眠そうに蒼は白く露わになった首筋から背骨を辿りながらキスして、太く逞しい腕でゆっくりと気怠げに抱き締めて来た。
「……ん……知ってる」
夢の中の自分はその腕に摑まり、笑みを浮かべながら心地良さそうに眠っていた。
瞼は重く、持ち上がらない。
昨夜は何度も執拗に愛撫され、絶頂に達してもそれでも許してくれず深い痙攣の中意識を手放していた筈だ。
だが夢の中で蒼は甘い声で囁いては、何度も唇を押し当ててきて、強く優しく抱き締めてくれている。
『ずっと抱き締めてるから、起きないで……』
蒼は首筋に顔を埋めて、耳朶を甘く噛み舌を這わせて胸の尖った突起を摩った。
「……あっ……」
夢なのに甘い痛みが胸から走り、躰を震えさせるとさらにキスを優しく重ねてきた。
『皐月大好きだよ』
蒼が腰を寄せ、耳元でさらに甘く優しい声で囁いた。
朝目を醒ますと、目の前に蒼の太く鍛えられた腕が頭の下に敷かれていた。
腰は怠く、広がる後孔の鈍痛は重かった。
朝の空気は冷えて、窓を見ると少し雨が降っているようだ。
しまった、傘がない。
蒼に借りようと思ったが、気持ち良さそうに寝顔を枕に埋めて起こすのも可哀想だ。
頬にキスをして、寝顔を眺めた。
この清廉潔白な顔立ちと逞しい雄の躰で、昨夜も散々泣かされ手酷く抱かれたのを思い出すと顔が赤くなった。
付き合っていた頃は優しかったが、何度も貪欲に抱かれるうちに自分だけが蒼の欲望を受け止めてるようで幸せだった。
蒼を堪らなく欲しくなり、求められると激しく乱れる自分が恥ずかしくて、反応する躰は喜んでいた。
夢の中の蒼も優しくて好きだった。
でも今はもっと好きなんだと、蒼の胸の中で抱かれながら思っていた。
蒼が好きだ。
前よりもずっと好きだ。
隣で寝息を立て子供のように眠る蒼が、愛しくて堪らなかった。
どうして付き合ってる頃にもっと蒼を大事にしなかったんだろう。
自分からも蒼へ好きだと、沢山伝えてやれば良かったと後悔した。
けれどもその言葉はもう今の蒼には必要ない。
自分は朝になると、終わりを告げられたように立ち去るしかないのだ。
蒼、好きだよ。
どんなに酷くされても好きだ。
恋人が出来ても変わらず好きで、ごめん。
瞼にキスを残して、シャワーを浴びると倦怠感の残る躰を引き摺って部屋を去った。
冷たい廊下をゆっくり歩きながら、一人珈琲を飲みに店に向かった。
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