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第68話 朝倉の思惑
蒼と逢えば心も躰も全て苦しくなり、桐生と会えば気持ちが緩められて何気ない会話に癒された。
二人とも本当は自分とは縁が遠い存在なのに、今だけ変な構図になっていた。
苦い珈琲にミルクを足すと、白濁と広がり朝の蒼の肌のように艶めいた褐色に変化した。
「先輩も近所なんですけど、よく自宅に呼んで会ってるそうですよ。いいですよね」
「……そう、ですか」
あの部屋で愛してると囁いて、恋人を迎える姿を知ってるだけに罪悪感で胸が裂けそうだった。
あれだけ激しく抱かれ、貪られても、結局蒼はあの部屋で優しく恋人を抱くんだと、その姿を想像してしまい黒木から目を逸らした。
倦怠感の残る怠さのせいか、我ながら自嘲的な考えに呆れてしまった。
「僕が思うに、先輩は同期の朝倉と付き合ってるんじゃないかと思うんですよ」
「……あつっ!」
「わわっ、大丈夫ですか?」
思わずまだ温かさが残る珈琲を手が滑り、一気に飲んだせいか、舌を僅かに火傷した。
黒木は夜勤明けで疲れてるはずなのに、溌剌とした元気な声で残酷な事をよく言ってくれる。
朝倉は自分の外来受診の担当医だ。
もう受診は様子見で次は半年後になり、顔を見なくて済むのが幸いだった。
「そ、そうなんですか?」
「同性ですけど、よく二人で食事もしてるしいつの間にか仲良くなってるんですよ。朝倉も満更じゃないし、なんとなくですけど、そう思いますね」
周りを見渡すと雨も止んで、すでに他の客もいそいそと外へ出て行って客入りも少なくなっていた。
「まあ、お二人ともお似合いですもんね。それはアリですよ」
自分が言った言葉に、烙印をつけられるような感じがして虚しかった。
これ以上は聞きたくなかったので、珈琲をいそいそと空にし、時計を見て帰る雰囲気を出した。
「……俺、帰りますね。……あと、黒木さんにお願いがあるんですけど、あの、蒼さんには……ここで桐生と会った事を内緒にして頂けませんか? ……蒼さん、優しいけど桐生と会ってるのをあまりヨシとしないみたいで……迷惑かけたくないし、あの人心配性だから、すみません……」
苦しいながら濁して察してくれと、対照的な二人を思い出し、黒木に口止めをした。
蒼にここで桐生と会っているのを知れたら、それこそ反省もしてない自分に軽蔑されてしまう。
黒木は珈琲を飲み、何やら考え事をしながら言った。
「いいですよ。そのかわり、俺とご飯を食べにいったら、言いません」
雨上がりの朝に爽やかに誘われて下心は感じ無かったので、それで良いならと、つい了承してしまった。
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