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第74話 黒木からの連絡

菫は近くで飲んでいたのか、思ったより早く指定した店に到着した。 黒のマフラーに薄手のコートを羽織り、モデルのように着こなした長身は店内に入ると周囲の客の視線を集める程だった。 運の悪い事に皐月は黒木の横にしな垂れて、手を絡ませて寝ていた。 誰かと間違えているのは分かっていたが、黒木は振り払うこともできずにそのまま手を繋いで胸の高鳴りを抑え、店の定員には待ち合わせを伝えると、小瓶ビールを飲みながら菫の到着を待っていた。 「……いた。うん、黒木くん、説明してくれる? 一体どういう事かな」 笑みと怒りを仄かに浮かべながら菫は繋いだ手に目を落として、黒木に問いを投げかけた。 黒木は怒りに燃える薄緑色の瞳を見ながら、たじろいで手をそろりと離すと菫は繋いだ手から視線を外した。 そして菫は寝ている皐月の隣に強引に割り込み、1杯だけジンジャーエールを注文すると、黒木は席を一つずらした。 「あの、先輩は飲んでいたんですか……?」 「うん、朝倉くんと近くでね」 「仲、良いですね……」 頼んだジンジャーエールが運ばれると菫はほっと一息ついて、目を細めて口に含んだ。 皐月は黒木と同じように横にいる菫に凭れたまま寝ていた。 「で、君はいつ皐月と仲良くなったの?」 「……朝に近所で、たまたま皐月さんと会って、食事の約束を取り付けたんです」 「へえ、皐月はなんて?」 菫は微笑んでいるが瞳は笑っていなく、冷たい視線で横目で黒木を見ていた。 黒木はたじろぎながら小瓶ビールをあおった。 その味は苦みを増して口の中へ拡がった。 「……普通に承知してくれました」 「……そう。よく、そこのコーヒー飲むの?確か君とも僕のマンションから近いよね?」 菫はにこにこと隣で笑顔で聞いてくるが、圧が強くて黒木はたじろいだ。 まるで刑事との尋問のようだった。 「あ、丁度、桐生が傍にいて……」 しまったと黒木は内心舌打ちをした。 あれだけ皐月に口止めされて、今日の約束を取り付けたのに台無しだ。 「桐生君がいたんだね。朝かな?」 「…そうですね…7時とかだったかな……」 ちらりと横目で菫の肩に凭れた皐月を見ると、可愛い寝顔が見えた。 「……そっか、ありがとう。僕は送って帰るよ。ここ、払っておくから」 蒼は席を立ちコートを羽織ると、皐月を起こそうとした。 「皐月、帰るよ」 「……ん、きりゅう……?」 皐月は目を擦りながらふらふらと起き上がり、席を立った。 「皐月、帰るよ、ここで待ってて」 菫は眠そうな皐月の耳元で甘く囁くと、会計に向かって歩きカードで精算しようと店員と話していた。皐月は目を擦りながら起きて黒木を見ながら、酔ってるのかじっと睨みつけると急に顔を寄せて額を合わせた。 黒木は突然の事で驚き、硬直した。 至近距離で唇が触れるかと思い、思わず身を引いて、横目で菫を見ると菫も驚いてこちらを凝視している。 さすがにこれはまずい。 「ん、今日は楽しかった……」 熱い額が一瞬触れると、後ろから菫が急に皐月を引き寄せて肌の熱さが引き、距離が離れた。 「黒木くん、今日はごめんね。皐月、結構酔ってるから僕達は帰るよ。ありがとう」 「……ええ、先輩もお疲れ様です」 紳士的な振る舞いをする菫に怒りと嫉妬をうっすらと感じ、黒木は何も言えず返事で答えながら、二人の姿を見送った。

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