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第75話 慌てる蒼
あの頃はよく額をごつんと軽く合わせるのが、互いの合図だった。
札幌は寒い冬が長くて、付き合っていた時は一緒にくるまって毛布の中でよく抱き合っていた。頭の下に敷かれる太くて逞しい腕が懐かしかった。
『……皐月、寒いね』
そう呟いて、額を合わせてよくキスをして唇を何度も重ねて笑った。
「ん……すき……」
服を脱がされながら、肩や首筋に唇を当てられて、擽ったいのか肌寒いのか身体が震えた。
ぼんやりと部屋についたのは分かったが、どこなのか朧気で見えない。
洗ったばかりのシーツの肌触りが心地よくて、横になってその冷たい感触に酔いしれた。
まるで三年前の蒼に会ったようで幸せだった。
黒木が蒼に似てて、そして蒼が急いで待ち合わせ場所にやってくるのを夢に見えた。
あの頃と変わらない、甘い声で耳元で囁く優しい蒼がそこにいたような気がした。
久さしぶりにこんなに飲んだ。
『飲み過ぎだよ……』
タクシーの中、揺れる車内で手を繋いだ感触を感じた
瞼を閉じて車の振動と絡まる指先を心地よく感じ眠っていたのを覚えている。
そしてどこか部屋に着くと、溜息まじりに呟かれて、水を口移しで飲まされた。
その肉感的な唇が愛しくなり、手を伸ばして頸にしがみ付いた。
今日は酷く酔ってる自分がいた。
そしてそのまま覆いかぶさるようにベッドに押し倒されて、服を剥ぎ取られた。
自分もその太い頸に何度も吸い付いて、さらに首筋に唇を当てて舐めるように吸った。
少し汗ばんだ雄の味と匂いがして胸が高鳴る。
夢の中にしてはリアルで、それでいて甘く蕩けそうだった。
何度も軽く押し重ねると長い舌が侵入し、互いに絡ませた。
互いの指を絡ませて、何度もキスをし唾液が吸いきれずに顎を伝って落ちた。
『……皐月、酔ってるの……?』
優しい声が耳元を撫で、胸の突起を愛撫されると嬌声が漏れ出た。
酔っているせいか、夢の中では酷く素直で、その大きな掌と指先を優しく感じて与えられる悦楽に浸った。
三年前に窓から降り注ぐ雪を見ながら躰を合わせたように、空気は冷たく、互いに何度も唇を重ねて揺れ動くその光景を思い出していた。
「……三年前の蒼みた……いだ……」
そう小さく呟くと、酷く悲哀に満ちた薄緑色の瞳が揺れて映った。
哀しみを癒すように唇を塞ぐと、動きが止まった。
あの頃に戻ったように優しく、大切にされた気分がひどく切なかった。
このまま酔いが醒めないで、ずっと夢の中に留まっていたいと刹那に願った。
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