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第94話
朝の冷たい空気で目がさめた。自分の部屋に戻ろうとすると、うしろから長い腕が伸びてすぐにベッドに引き戻された。
「……ん、皐月行かないで。朝は一緒にいたいんだ」
珍しく起きてる蒼に驚き、振り向いて顔を見上げると、頬を膨らませてまどろむ瞳は子供のように不満そうな光を帯びていた。昨夜の顔は消えて、かわいい。
なんだか三年前に戻ったような感覚に懐かしくなり、笑ってしまった。
「……どこにもいかないよ。水を飲みたいんだよ」
喉が枯れて、身体の節々がいたいのだ。
昨夜は何度も絶頂に達し、気怠さと今までにない幸福感で包まれていた。
「……最近分かったけど、僕は結構嫉妬深いんだ。自分のホテルなのに、桐生君の名前で宿泊したり、黒木君と付き合ってるの聞くと不安でしょうがないんだよ。………君は嫉妬心を煽るのが上手すぎる。」
すごく不満そうに蒼はもぞもぞと抱き締めながら、首筋に顔を出して横からキスをした。触れた肌が熱くて、また眠くなりそうだった。
「……蒼だって朝倉さんと食事してただろ。」
拗ねたように言うと、蒼は真顔で答えた。
「彼は同僚だよ。でも桐生君は違う。ましてや黒木君なんて…同じホテルで君達二人が泊ってるかと想像するとまた狂いそうになるんだ。」
蒼は横から何度も啄むように唇を重ねると、前髪が頬を擽ってこそばゆい。
薄緑色の瞳は子供のように不満そうな色をしていたが、無邪気に遊んでいるように見えた。
「……けど、どうしてそんなに黒木君はだめなのか理解出来ない。」
昨夜何度も何度も黒木を持ち出しては、蒼は拗ねた様に不満を呈しては何度も愛撫を繰り返した。
「………桐生君は頑張れば、取り戻せそうだけど、黒木君を好きになられたら、君は本当に戻って来なくなりそうな気がするんだ。上手く言えないけど属性が同じだから、怖いんだよ。」
「……ふは、属性って…。蒼でもそんな事考えるんだ。」
「そりゃあ四六時中仕事してても考えるよ。とにかく、黒木君は僕からも釘を刺しとくからもう会うのはやめて欲しい。」
蒼でも怯える黒木が面白くて、ケタケタと滑る胸の中で抱き締められながら笑った。
黒木は確かに強引だが、憎めないし、惹かれる所もあるが、まさかここまで影響力があるとは思えなかった。
「………まあ、ちゃんと黒木君にも伝えておくよ。電話は毎日くるし、大丈夫…あっ…。」
「皐月、そうやって煽るのはだめだよ。」
蒼は怒った表情で胸の突起を軽く抓った。
甘い悦楽が駆け抜けるように、また疼いて足の爪先が反り返りそうになる。
「…蒼…もう、躰が限界だよ…ぁッ…」
「煽った君が悪い。」
「……ァッ…やめっ…。」
「…まだ柔らかいね、挿れていい?」
甘く低い重低音の声で囁いて、ゆっくりと膨らんだ窄まりに硬くなった屹立を押し当てながら腰を前へ当てつけた。
まだ濡れているそこはずぶずぶと飲み込み見ながら、入口を押し拡げ、内壁がひくつくように蠢いた。
「……ッァ…蒼……あっああっ…ッァ…」
「……っ…皐月…。」
ゆっくりと腰を押し当て入口を拡げ、朱色に染まる首筋に何度もキスを繰り返した。
「1年で契約を終わらせて、すぐ戻るよ。なんて僕は馬鹿な事をしてたんだろう。」
蒼はうるうると薄緑色の瞳を潤ませて、泣きそうになっていた。
「いいよ、前も北海道だったし。終わればそのまま終われる…んっ…」
絶え絶えな躰と声で、また唇を重ね、結局その日は昼まで抱き合うはめになった。
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