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第86話 三年前の夢
疲れてるせいか、よく三年前の記憶が蘇り夢まで見るようになっていた。
あれは蒼が夏の終わりの朝だ。
1週間のフレックス休暇を取り、自分も合わせて休暇を取った時だった気がした。
1ヶ月ぶりに再会し、2日間ホテルで躰を繋いで、よく笑い合った。
パンフレットを子供のようにキラキラと薄緑色の瞳を瞬かせて、揶揄うと頬を膨らませて何度も悪戯にキスを繰り返した。
楽しくて、優しく触れるその手は全て愛しい。
『酷いなぁ、久しぶりに会えたんだから、色々連れて行きたくなんだよ。…でも君とずっとここにいてもいたい気持ちもあるし迷っちゃうよね』
付箋を沢山張り付けた本を閉じて、照れたように笑う蒼が懐かしかった。
多分、この時が一番幸せで好きだった。
そしていつの間にか、最後に会った蒼に場面は変わり、言い知れない暗闇で夢は終わる。
触れる事もなく、冷淡な視線が蘇るように思い出されて、目が醒める。
寝起きはいつも最悪だった。
泣いていたのか、頬には涙を伝った痕があった。
自分はまだ夢の中で、あの頃の蒼を縋っているようで朝から惨めだ。
ーーーーーーーー全部終わった。
優しく触れた指先も、何度も重ねた肉感的な唇も、擽るような言葉も全てあの冷淡な蒼に戻ると急に現実に戻れた。
春先に見た蒼は、朝倉を捉えていた。
あの薄緑色の瞳はもう自分に瞬くことはない。
やるせない思いを抱いて、起き上がると携帯が震えた。
桐生からの着信だった。
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