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第一章 再会 一

 数年経った某月某日、ある雨の日の葬儀場。  昨日からしとしとと降り続く雨は、今朝からやむことはなかった。  日向誠(ひなた まこと)はぱらぱらと通夜にきてくれた人たちを精進落としの部屋に案内していた。  弔問に訪れている人たちにやわらかな笑顔でこたえている。  力仕事が必要とあらば進んで参加して、親戚が葬儀代の捻出も難しいと聞いて人手がいないかわりに彼が働いている。  荷物を持つ腕に力を込める体は昔鍛えたのか肩幅が広く男らしい。手伝うためにめくった腕から見えてる二の腕も無駄な筋肉がなく、引き締まっている。  誠は三年ほど幸せな結婚生活を送り、一年前に妻の加奈子に先立たれた。  結局のところまた独身に逆戻り。  そうこうしているうちに妻の兄、武彦まで亡くなってしまった。 (幸薄いなぁ、早坂兄妹……)  兄妹だけじゃない。彼の両親も父親の史丈が多額の借金を残したまま数年前に他界していた。  その負債は、兄武彦が背負うことになり、武彦と貢の親子は小さいながらもアパートでつつましく二人暮らしをしていたそうだ。  誠は一通りの仕事を終えると祭壇を見つめながらぼんやりと思い出していた。  その後の葬式は訪れる人もまばらになった。  結局近所の人が数人最初にバタバタと訪れただけで、後はすっかり暇になってしまった。    会場として借りた場所も一番小さな会場にした。しかし親戚関係も誠を含めほんの5人くらいしかおらず、部屋が広く感じた。  先ほどから気にはなっていたが祭壇の横に一人の少年がうな垂れるように座っている。  誠の甥にあたる早坂貢(はやさか みつぐ)で高校の制服を着ていた。  一年前に誠の妻が亡くなった葬式以来だ。  深い紺のブレザーをきちんと着こなして、申し訳なさそうに隅っこで小さくなっていた。  声を掛けようとしたが誠はどうにも貢にどこか遠慮した気持になってしまう。  決して嫌いな存在ではない。しかし彼に会うたびに自分でもこの変な感情が未だによくわからないでいた。

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