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第二章 貢の悩み 一
(傍にいるのにこんなに近くにきたっていうのに。どうにもならないことがあるものだ。人にはどんなに頑張っても手に入らないものがある。それはどれだけ努力しても頑張っても運命という言葉に翻弄されて逆らう事もできない。それは僕が誠さんに選ばれなかったことと同じことだ。それだけじゃない、僕が僕自身が誠さんを受け付けない体になってしまっていることに愕然とした。悲しみが悲しみを超えると麻痺してくる。またかと僕はうっすらと笑うしかできない。抗えないんだどうせ運命には)
一週間の休みの後、貢は誠の家から学校へ向かった。
誠は自分のことを完全に嫌われ者だと思い込んでいるに違いない。
貢は誠の顔を直視できないけれど、それは誠を嫌いだからではない。
しかし、自分の身に起きた過去のトラウマがまさか誠に対してまで発作という形に表れるとは。
貢は落胆していた。
(どうして物事はこう自分の望む方向と違うほうへ行ってしまうのだろう。
これからも運命はこうやって僕を真綿で首を絞めるように追い詰め、がんじがらめにしてしまうのだろうか。
僕は鏡を見るのが嫌いだ。自分が嫌でたまらない。
あの人に似てる顔が鏡に写るたび気がめいる。
僕は僕自身が嫌いだ。嫌いでたまらない。
僕は爪をかんだ。かんだって世界が変わるわけじゃない何かが起きるわけじゃない。
唇をかみ締め涙を滲ませたって世界が変わるわけじゃない。
なのに僕はどうしていつもこんな風に惨めな気持ちでそれをしてしまうのだろう)
その後誠は三日間の忌引きを終えて勤め先に行っている。
その間の三日間は貢のために動いてくれたといっても過言ではない。
でもそれは義務からだとわかっている。
惨めな自分に同情してくれているのだと貢は思っていた。
すぐに布団を購入してくれて貢は真新しい布団に寝ることができた。
貢の父のための祭壇もリビングに置いてもらい、自分の荷物や遺品も速やかに移動され、今はお骨も落ち着いている。
ただ、ダブルベッドの上にまで荷物で占拠してしまったため、誠はリビングの床で寝ることになってしまった。
誠へは発作が起きてからは近づく事もできない。
(僕が汚れてしまった罪だろうか……。)
そんなことを考えていたら貢はまた胸が苦しくなった。
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