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第二章 貢の悩み 五

「そうそう、貢くんに後で渡すプリントとかあるんだ」  帰り道貢は戸惑っていた。在華たちから受け取ったプリントの中に一枚貢の頭を悩ませるものが入っていたからだ。 (すぐに渡した方がいいだろうな。このまま無視して、何もしなかったら誠さんに怒られるかもしれない。彼は人一倍責任感の強い人だから)  家に戻り、緊張した気持のままドアを開けたが、誠がいなくて少し気が抜けた。  キッチンのテーブルにある置手紙を見て少し気がほっとする。  今日は誠さんは遅くなる。 (そっか誠さんも仕事初めだし、そういえば接客業と聞いていた)  どんな仕事かは詳しいことは知らない。  離れてる時間も長かったし、しばらくは心の底にこの気持を静めていたから。    冷蔵庫を開けるとそこには温めてすぐ食べられるようにしょうが焼きが沢山の千切りにされたキャベツとトマトの山に埋もれていた。小さな鍋にはわかめと豆腐のお味噌汁が入っている。 (誠さんの手料理……)    貢は自分の胸がとくんと少しだけ高鳴るのを感じた。  あの大きな体で大きな手でお肉を焼いたり、野菜を切ったりしてくれたんだなと思うと、それだけで胸が一杯になる。  夜、一人でそれを食べながら貢はため息をついた。  大好きな人が作ってくれた料理なのに、ここ数日食欲がないせいか半分残してしまった。  食べようと頑張ろうとすればするほど、心が苦しくなってくる。  誠さんはこれを見てがっかりするだろうか。  どうしたらいいかわからずラップをしてそのままそこに置いておいた。  ふと思い出して、貢はテーブルの上に保護者面談のお願いと書かれたプリントをさりげなく置いておいた。 「ただいま……」  誠は玄関からリビングに入ると、テーブルの上に置かれたプリントを見つける。 (そうか……親代わりなんだから、これからはこういうこともちゃんとしないとな)  テーブルの上には夕食を食べた跡が残っていた。  誠が作った夕飯は全部は食べきれていなかった。半分くらい残っている。  けれど誠は少しほっとした。  自分の作ったものを口にしたら発作が起きるなんてことになっていたらどうしようかと、仕事中に変な事が頭を過ぎっていたのだ。  少しでも口にしてくれただけでも自分のすべてを拒絶しているわけじゃないんだと安心した。  

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