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第二章 貢の悩み 十
家に戻ると明かりが灯っている。誰もいないと思っていた貢の心臓がとくりと波打った。
少しだけ唾を飲み込んでカバンから鍵を取り出し、自分からドアを開ける。
そっとドアから中を覗くと部屋の奥からいい匂いが漂ってきた。
彼が家に帰ってきている。
人のぬくもりがそこにはあった。
その気配にズキンと胸が痛む。彼を思う気持がまた自分の胸を締め付けてしまう。
貢はそっとドアを閉めると、そのまま靴を脱ぎ、誠の姿を見ずに部屋に入ってしまった。
誠は貢の気配を感じていたが、そのまま好きなようにさせていた。
もちろん彼がそっと自分の部屋に入っていったこともわかっていた。
今日は早く帰る事ができたので家に帰り夕食の支度をしていた。
貢が特に部活をやっているという情報はなかったから、そのわりに帰りが遅いと感じてはいた。
「おかえり……」
ドア越しに誠の声が聞こえる。
「た、ただいま……」
貢は小さく返事をした。
返事をしてくれるだけいい。
彼の声を聞いて誠は安心する。
「お腹すいてないか?」
「ううん、まだ平気」
「そうか……それじゃ減ったらリビングの方へおいで」
「は、はい」
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