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第二章 貢の悩み 十三

 貢は誠の言葉にすぐ反応はできなかったけれど、温かな夕食に引き込まれるように席に座った。  目の前で湯気を上げているコンソメスープやタルタルソースのかかった白身魚のフライは匂いをかいだだけで引き込まれてしまう。  スプーンですくうと温かくて深い味わいと中に温野菜が何種類か浮いていてそれらが噛み易く甘いのでじんわりと体の奥から温かくなった。自分が思っていた以上に体が冷えていたようだ。 (美味しい……)  食事中も誠は貢に柔らかな笑みを浮かべていた。自分の分を豪快に食べながら時折貢の食の進みも見ていた。  ふと目が合い、彼の温かな視線に戸惑い、思わず目を伏せる。 「あ、ごめん、ちょっとじっと見すぎちゃったね。いや、その、色々なことがあったし、貢はこのところ顔色もあまりよくなさそうだったから、君の体が心配なんだ」 「僕の……体?」  貢は戸惑う。僕の体の何を心配になってくれているのかだ。恐らく発作のことなのだろうけど、まさか自分が心療内科にお世話になっていることをとっくに知っていたとしたら。 「とにかく色んなことで体の調子もよくないみたいだし、少しでも栄養つけてもらいたいと思ってる。君がどんなものが好きで何が食べやすいかとか聞いておきたいんだ。貢くんは胃腸は丈夫なほう?」 「い、胃腸は……あまり丈夫じゃないです」 「だろうと思った。スープとかでいいから少しづつ食べ易いもので野菜とかお肉を食べて、とにかく体から元気になろう。そうなって欲しい。僕はそのためなら頑張って御飯を作るよ。だから安心して貢くんは勉強とかその他の事を頑張って欲しいんだ」  屈託のない柔らかな微笑みは自分の甥に対する責任感からでてきた大人の言葉なんだろうと貢は思った。 (そう、誠さんは自分なんかよりもずっと大人なんだ。今も優しいけれど、ちゃんとテーブルの距離は保たれていて、それは僕のあの時の発作の影響からの配慮なのだろう)  わかっているのに。そうしないとだめだからわかっているのに。でもそれは同時に貢と誠の今の距離であるような気もして。貢は胸が締め付けられた。  目の前のスープが温かくて胸が苦しくなるくらい美味しくて、嬉しくて……。  だから余計苦しい。

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