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第三章 貢の過去 一
空になったお皿をみて誠は満足気にキッチンで洗い物をしていた。
自分が出した料理がこんな風にすっかりなくなる場面なんて久しぶりだ。と微笑む。
誠はいつでも誰かが幸せそうにしている場面を見るのが好きだった。
前の妻の時もそうだったし、それが特別であればあるほど喜びが増すのだった。
そう、あれはとても温かな式だった。
お祝いの場は式場の中でも一番隅の小さなパーティルームだった。
それでもその場にいる者がみんな笑顔だった。
結婚式ではどの人もみんな笑顔ではあるが、中には会社の付き合いや、遠い親戚で借り出された人などが参列してる場合もある。
だから全ての人の笑顔が心からという風にはいかない時もある。
しかしその式は違っていた。
どの人もみんな彼らが結ばれることを望み、心からの笑顔を向けていた。
そしてお祝いの時間を惜しむように時は刻まれて行く。
派手なタワーケーキはなかったが、小さなケーキは誰かの手作りらしく、二人の顔と名前がチョコレートでデコレーションされていたものだった。
片方の新郎の話では、彼らは長い間付き合っていた。そして特殊な仲ゆえに周りの人からの理解を得るのに時間がかかった。
それはお互いの出会いから付き合うまでの長さも含まれ10年の歳月を経ていた。
だからなおさら式場では彼らが結婚に至るまでのことを知る一握りの人たちが集まり、時折涙ぐむ人や、一般的には変わった式であってもその場にいる人たちがみなそれを当たり前のように受け止めていた。
その様子が誠には衝撃的でもあり、妙に胸に迫るものだった。
そして時折新郎の言っていた最後の言葉が頭から離れない。
何か誠のどこかに置き去りにしたそれは変な感情だった。
目の前に泡まみれになったお皿からシャボン玉が飛んで、それがパチンと割れる。その拍子に誠は我に返った。
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