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第三章 貢の過去 四

「あの……」  誠はふと橋川に尋ねる。 「貢は何か思い悩んでいるようなことはその、ないでしょうか」  先生は少しだけ考えるようなしぐさをして微笑んだ。 「そうですね。早坂さんは慎重な人で、他の人に心を開くことが少ないように感じます。もちろん学校でのやるべきことはきちんとこなしているし、集団でやらなければならないことはちゃんとやってくれています。宿題が出ていないとかテストの点数が極端に低いこともなく、むしろ全体的によくできている方です。ただ」 「ただ?」 「具体的に何をしたいかという将来的な希望などを尋ねても、彼の中でこれと言った明確なことがないように感じます」 「……そうですか」 「けれど逆に言えば、彼は何か目的ができれば必ずそれができるようになれると思うのですが、どこかその、最初から物事を達観してしまっているというか。無理だと思うのが早いといいますか」 「やる前に諦めてしまうとか?」 「ええ、そういう風に見受けられます。けれど決して何もできないわけではないのですよ? 能力はあるはずなのに、本人の気力がないといいますか」 (そうか……。そういえば貢はいつも希望に満ちているというよりは、何かを達成することなくただ生きてきているように思える)  何が彼をそうさせてしまったのかはわからないが、恐らく彼が抱えているなにか見えないものを一緒に叶えることができたら、そうしたら……) 「ご家庭でも今後の進路について話し合ってみてください、彼の成績なら大学の推薦入学も視野に入れることもできますし……」 「わかりました」  誠は先生に一礼すると教室を後にした。

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