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第三章 貢の過去 五
下駄箱の上に一時的に置かせてもらった靴を履き、広々とする校庭に出る。枯れた木々が時折冷たく吹きつける風に揺られていた。
校庭には部活中の陸上部の子たちが走っていて、それらを見て手をふりながら応援する仲間たちが、校舎の入り口近くの階段に座っていた。
校庭をぐるりと回るように来た道を戻っていると、背中越しに誰かがこちらに走ってくるように感じた。
振り返ると部活中らしい陸上部のスウェットスーツの格好をした女の子が誠が通ってきた道を息を切らせながら走ってくる。
「あの、すみません、も、もしかして、あなたは早坂貢くんの保護者の方ですか?」
「えっ、ええ。そうですけど。あなたは?」
「あのっ、私は茜崎在華っていいます。貢と授業が重なることが多くて、それにその、中学も一緒でした」
「そうなんですか!」
誠は改めて彼女の方に向き直った。
貢の学校での生活を知っている子が目の前にいる。
貢のことはわからないことが多いから、もしかしたら彼が今のような性格になったのも彼女が知っているかもしれない。
けれどいきなり貢のことをあれこれ聞くのも変かなと思い、誠は差しさわりのない会話をすることにした。
「君は運動部なんだね」
「え、ええ」
「貢は特に運動部にいたとか何かスポーツをやっていたとか聞いたことはないんだけど」
「昔彼は少しだけバスケットをやっていた事があります。私も中学のころはバスケット部で……」
「そうなんだ」
誠は貢の意外な一面を知った。
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