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第三章 貢の過去 八

(何かあったのだろうか誠さん……)  先ほどから貢の手は箸を握り締めたまま止っていた。  斜め前の席に座っている誠があさりのお味噌汁を啜り、それが熱かったのか顔をしかめている。  最初に妙だと感じたのは、サラダの野菜の切り方がざっくりしすぎていたことだ。  きゅうりは縦に切られて、あちこちに刺している。トマトも大胆な輪切り、それに添えてあるドレッシングも味がちぐはぐでおかしい。  焼いた豚肉は少し焦げ目がつき、あきらかに塩とお砂糖を間違えてる味付けだった。  さらにびっくりしたのが、煮物のじゃがいもが丸ごと入っている。切り忘れたに違いない。  案の定、熱は芯まで通ってなかった。  しかも本人は真面目な顔をして食事をしているが、花柄のエプロンをしていてそれを外し忘れている。   (なにかあったのかな、どうしよう……どういう風に話を切り出したらいいのかな。そもそもここで何かいうのは変なのかな。でも、誠さんの料理美味しいから今日も楽しみにしていたのに)  一瞬視線を合わせそうになって、双方で慌ててそらす。互いに何かあったのだろうかと増々不安になる。 (どうしたんだ貢。おかずもしっかり食べるようになってきたのに、今日はさっきから味噌汁と御飯とサラダにしか手を出していない。やっぱり男が作る料理は嫌なのか。ああ、俺はどうしたらいいんだ)  額に縦線が数本入るような誠の沈んだ表情に、貢もなにか言わざるを得なかった。 「あの……」 「ん? どうした」  クマができてる目が大きく見開かれた。 「なにかあったんですか?」  思わず誠は口にしていた煮物のニンジンを喉に詰まらせ咳をする。 「いや、そのっ、俺の作る飯はまずいか?」  大きな体がいつもより丸まり、すっぽりと椅子に納まりそうに縮こまっている。

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