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第三章 貢の過去 九

 貢は慌てて首を横に振った。 「ううん、ううん。美味しいです。とても」 (でも……いつもなら、もっと……)  そう付け加えようとして恐る恐る誠の顔をみた。  誠の沈んだような視線が一瞬だけこちらに合うと、貢はまた慌てて視線をそらした。  いつもこうだ。誠さんと再会してそれからというもの視線を合わせることができない。  彼がキッチンで洗い物をしていたり、テレビを見ていたりする時、貢は彼の背中を本を読みながらそっと盗み見ていた。  相変わらずの広い背中、あの時より少し年をとったけど変わらない横顔。瞳は大きめだけど少しだけ目尻が上がっていて、おでこから鼻にかけて堀が深くて唇は口角が上がっていて意思の強さを感じる。  もちろん腕や足にも筋肉が綺麗についていて一日やそこらでついたものではない逞しさを感じる。  不思議な夕食が終わり、貢はなんとなくその場にいるのが気まずくて自室に戻った。  カバンの中から在華に借りている本の間のしおりを手に取る。  そのしおりを愛しそうに指でなでると自分の上着のポケットにしまった。 「貢……」  その時ふと廊下から張りのない声が聞こえ、どきんと心臓が跳ね上がった。

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