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第三章 貢の過去 十

「叔父さん……?」 「もしかしてお前、迷惑だったか?」 「え?」 「俺が、お前を引き取った事」 「……」 「いや、なんでもない……」  声に力が無く消え入りそうになる。そのまま廊下をトボトボと歩いて行く足音が遠ざかっていった。 「待って!」  貢は慌ててドアを開けると、誠の背中がびくりとして、少しだけ俯き加減でこちらを見る。誠はリビングのドアを閉めようとしているところだった。 (やっぱり僕のこと気にしていて何か落ち込んでるんだ) 「そ、そんなことない……です。め、迷惑だなんて。僕がお父さん亡くして親戚の人も僕の事疎ましく思っていて、これから先どうしたらいいかわからなくて、そんな時に叔父さんが僕に温かな寝床と美味しいご飯を用意してくれた。だから、ぼ、僕は僕は……むしろ……」 「貢……」  誠は初めて二人の視線がしっかり合った気がする。 「……ありがたかった」  囁くような声と少し照れたような横顔を見せドアが静かにしまる。。  部屋に入ってすぐ貢はバクバクと波打つ心臓に手を置いていた。  あんなに自分の気持を話したのは久しぶりだった。  でも本当の事で、でも、こんなに自分の意見を言えた自分が信じられなかった。    まるで意思を持ち始めた人形のように早口で喋る貢を、誠は思わずぽかんとして見てしまった。  けれど、先ほどのどんよりとした気分が嘘のように晴れていくのがわかった。  正直嬉しい。少なくとも貢は困っていて、それを自分が助けた事に関しては嫌だとは思っていなかった。  発作の事はわからないが、なんだか胸がいっぱいになる。  いつ以来だろうこんな風に気持ちが満たされるのは。

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