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第三章 貢の過去 十一

「うわっ、なんだこの味、何がどうなってる?」  食欲がわいた誠は、そこで始めて悲惨な味の自分の料理に気づく。  顔をしかめて思わずテーブルに突っ伏した。 「こんなまずい飯を貢に食わせてたのか、こりゃ駄目だ。大失敗だ」  貢に申し訳ない。これじゃ食べる以前の問題だ。  何か彼にお詫びをしなくては。 (……そうだ!)  もう辺りは暗かったが、駅前に出ると急にモール街が眩しくて貢は目を細めた。  あれから誠がすごすごとやってきて、お詫びにと外食に誘ってくれたのだ。  普段着で誠さんとお出かけできるなんてと荷物を漁り、一番綺麗なセーターを引っ張り出し着込んだ。  少し距離をあけて歩く二人。なんとなくぎこちない距離。    それが今の二人の距離……。   「貢、ここ美味いんだ」  白い歯を見せて笑顔で誠が連れてきてくれた店は、少し古ぼけた雑然とした定食屋だった。  しかし、店そのものに長年の味が染みついているように店の前からもうなんだかいい匂いが漂ってくる。  店主が大きな声でいらっしゃー!と叫ぶのに少しだけ気後れする。  店内はお世辞にも綺麗とは言えない。映画で観たような昭和を感じさせるような懐かしい雰囲気の店で、赤い丸イスに白いパイプで支えている木のテーブルが幾つか置かれていた。席の真ん中には醤油やらソースやらの調味料などが置かれている。  それと一緒に立てかけてあった古いメニュー表を誠に差し出され、覗いてみるとそこにはニラレバいためとか餃子定食とか野菜炒め定食など、庶民の味がこれでもかと満載されていた。  古い換気扇が少し調子悪そうにカラカラと音をたてて回っている。 「ほんとにごめんな。どうしてあんな味付けになっちゃったのか」  いらっしゃいとテーブルに水を置く女性定員に、「何食べる?」と笑顔で聞いてくる誠はすっかり元気を取り戻したようだ。  誠に何があったのかわからないけれど、それでも元気になってくれてよかったと貢は思った。  注文を終えた後、貢はなんとなく手持ち無沙汰で、テーブルにあるつまようじや割りばしの箱、テーブルに誰かがいたずら書きした不思議な文字を眺めていた。 「それにしても本当に大きくなったなぁ」とふいに誠が貢に微笑むように呟いた。  そして貢の頭をなでようと手を出そうとして、何かを思い出し、すぐに引っ込める。

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