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第三章 貢の過去 十二
「お前の小さかった頃に丸い頭をなでるのが好きだったんだ……。俺がなでるとお前はにっこりとまるで花が咲いたみたいに笑顔を向けたんだ」
それぞれ頼んでいた野菜炒め定食とニラレバ炒め定食がきて、箸を持つ。
定食のわかめのお味噌汁を口につけながら貢は少しだけはにかむ。
なにもかもが懐かしい幸せだったあの頃。
「美味しい……」
「だろ? たまにはこうして外食もいいな」
嬉しそうに食べる誠のほっぺたに米粒がついているのを貢は気づく。
なんか子どもみたい……。そう、この人はこういうところがあったんだ。
「なんだ、どうした?」
貢がそっと誠の頬の方に指を差した。
「あ、ああ。すまん」
米粒の存在を知り、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる誠を見て貢も微笑んだ。
その顔を見て誠はキョトンとする。
「……どうしたの?」
「いや、お前が笑ったの久しぶりに見た。うん、あの頃と変わらない笑顔だ」
「そんなことないよ、僕はあの頃とは随分変わったよ」
「そんなことはない。お前はお前だ」
変わらないと言われて喜ぶべきなのか悲しむべきなのか貢は複雑な気持になった。
でもこんな何気ない日常をいつまでも誠と過ごせるのならと今はその気持ちを封印した。
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